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MWC25 レポート: ソラコムの初出展とAECCの取り組み

こんにちは。ソリューションアーキテクトの渡邊です。前回ベルリンで開催されたAECC (Automotive Edge Computing Consortium) All-Member Meeting に続いて、3/3-6にスペイン バルセロナで開催された MWC25 へ参加してきました。ソラコムとしては初のMWC展示となった今回、どのような展示をしてきたのか、会場の様子も添えてレポートをお届けいたします。

MWC25の概要

MWC(Mobile World Congress)は世界最大規模のモバイル関連の展示会であり、毎年スペイン・バルセロナの Fira Gran Via にて開催されています。MWC25も例年通り多くの企業が出展し、最新のモバイル技術や製品が発表・展示されました。特に気になっていたのは、各社のフォーカスしている領域や重点を置いている分野で、昨今賑わっている生成AIへの取り組みなども期待して参加しました。


会場はバルセロナの市街からほど近いFira Gran Viaで、8つのホールから構成されています。その大きさは東京ビッグサイトと幕張メッセの合計面積を上回る規模だそうです。毎回同時に開催されるスタートアップの展示会4YFNのロゴも見えます。

MWC25全体のレポート

すでに多くのサイトでMWC25のレポートが公開されていますので、会場の全体の雰囲気や展示内容はそちらでご覧頂けるかと思います。MWC25公式サイトでも動画が上がっていましたので、こちらもご覧ください。

気になっていた生成AIの活用はすでに当たり前 (アンビエント) で、特に以下のような点が特徴的でした。

1. Automotive関連の展示が急増

会場内では、TeslaのCybertruckを含む多くの車両 が展示されるなど、自動車業界のテクノロジー企業としての存在感が増していました。コネクテッドカー、V2X(Vehicle-to-Everything)、エッジAIの活用など、通信技術と自動車産業の融合が進んでいると感じました。一方で、以前のMWCではスマートフォンの新機種発表が目玉でしたが、今年はデバイス関連の展示が昨年と比べて減少していました。

2. コンサルティング企業の存在感

Accenture, EY, KPMG, PwCといった大手コンサルティング企業が大規模なブースを展開していた点も印象的でした。これも通信技術がDX(デジタルトランスフォーメーション)や、5G/6Gを活用した産業向けソリューションへの融合が進んでいることを示しており、各社もそういった領域に力を入れていることが分かります。

3. HUAWEIの巨大な展示スペース

各社IndustryやLayerでフロアが分けられているように見えましたが、HUAWEIは単独で1フロアをまるごと貸し切る形で巨大な展示スペース を設け、5G/6Gやクラウド、IoT向けの技術をアピールしていました。これは、通信インフラ業界における彼らの力の入れ方を示すものだと思います。

ソラコムの展示内容

GSMA Open Gateway とは?

今回ソラコムが加盟しているAECCは、GSMA Open Gateway の一画を活用して、コネクテッドカー向けの最新技術を展示しました。これは 2024年に発表されたAECCとGSMAとの提携によるものです。

GSMA Open Gateway は、通信キャリアが提供する標準API群 (Telco-API) を通じて、ネットワークの機能(認証、QoS制御、位置情報管理など)を外部企業が活用できるようにする取り組みです。GSMA Fusion は、このOpen GatewayのAPIを活用し、モバイル業界と異業種の企業が実際のソリューションを共創するプラットフォーム です。例えば、自動車、金融、メディア、スマートシティ分野でのAPI活用が推進されています。

AECCの展示ブース

AECCの展示では以下のようなソリューションが紹介されました。

  • IRIGATE – 3G/4Gネットワークを超えたIoT接続の拡張
  • エンドツーエンド高品質通信 – 低遅延のデータ伝送を実現
  • トラフィックステアリング – ネットワークリソースを動的に最適化
  • MECフェデレーション – MEC環境間の相互運用性を確保し、データ処理を効率化

特に、ソラコムとトヨタのコラボレーション による IRIGATE System について詳しくご紹介します。

IRIGATE System とは?

IRIGATEは、コネクテッドカーが安定したネットワーク接続を維持しつつ、柔軟な通信制御を実現するための仕組みです。これにより車両とクラウドを接続するために複数のモバイル回線を統合管理し、各通信キャリア(MNO)のTelco APIを活用してリモートでの通信の制御を可能とします。

スライド中のQRコードはこちらのサイト (https://aecc.org/resources/mobile-world-congress-2025-resources/)

1. 車両とクラウドの接続

IRIGATEの技術を用いることで、車両とクラウドを安定的に接続し、データ通信を最適化します。例えば、車両が通信キャリアの電波の弱いところへ移動した場合、別のより電波の強い通信キャリアを用いることで高い通信品質を維持することができます。また、場合によっては複数の通信キャリアを束ねて、より広帯域なサービスを提供することも可能です。接続の認証にはTOYOTA SIMを用いる (前回のデモ) ことで、セキュアにデバイスを識別することが可能となります。

2. マルチキャリア対応

車両には、複数のMNOの回線を利用することが可能 です。そのうちの1つは、BYOD (Bring Your Own Device) Line: ユーザーが持ち込む回線を活用することも可能で、ユーザーが利用するスマートフォンのパケット量の未使用分を、コネクテッドサービスのデータ通信容量として利用することもできます。

また、Car OEM Line として自動車メーカーが提供する回線以外に、3rd Vendor Line: その他の通信ベンダーの回線を利用することも可能です。例えば、自動車の販売代理店やスタンドなど第三者が回線を提供することで、販売奨励のオプションやクーポンサービスの提供などが可能となります。

3. 通信の動的制御

いずれの通信回線の場合にも、 SORACOM Arc による論理的なオーバーレイの通信経路が構築され、通信回線のコントロールが可能となります。また、IRIGATEはソラコム及び各MNOのTelco-APIを活用し、通信速度の調整や回線のオン・オフを遠隔制御できます。

これにより、サービスオペレータにとって、通信コストの最適化や、利用シーンに応じた柔軟なネットワーク運用が可能になります。

ソラコムの実際のデモ内容

実際の展示はスペースの都合で動画展示となってしまいましたが、こちらのような展示を行いました。

Scenario 1: 通信キャリアのフェイルオーバー

  • 1-1 優先度の高いアプリケーション (CANデータ送信) 動作中に車両が通信エリアから外れた際、Telco-APIを使って通信断を検知し別の通信キャリア回線にフェイルオーバーさせることで通信を継続
  • 1-2 通信エリアから戻ったことをTelco-APIを使って検知し、元の通信キャリア回線に戻して継続利用する

Scenario 2: リモートからの通信路制御

  • 2-1: 特定アプリケーションの動作中に、他の通信キャリア (MNO3) の接続状態をTelco-APIによってトラッキング
  • 2-2: リモートから他の通信キャリア (MNO3) を利用するよう指示し、実際にアプリケーションがMNO3を使って通信する

Scenario 3: ユーザー持ち込み回線の利用

  • 3-1: CANデータ送信アプリケーション動作中に、別のスマートフォン (ユーザー持ち込み回線) を接続し、テザリング設定を許可することで、通信回線が変わってもアプリケーションには影響せず継続して利用できること

詳細はこちらのサイトからダウンロードできる資料も参考にしてください。
https://aecc.org/resources/mobile-world-congress-2025-resources/

まとめ

今後、AECC や GSMA Open Gateway / Fusionのような取り組みがさらに発展し、通信事業者と異業種の企業が連携する新たなエコシステムが形成されることが期待されます。

モバイル技術が単なるスマートフォン向け通信にとどまらず、IoTなどを通じて社会全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支える基盤となっていくこと、そんなモバイル通信の進化と異業種連携の可能性を感じたMWC25でした。

– ソラコム渡邊 (dai)