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IoTは “当たり前” の時代へ ~ AWS re:Invent 2022のキーノートやセッションで知る「IoTの今」

こんにちは、AWS Heroのソラコム 松下(ニックネーム: Max)です。

このブログでは、AWSの年次カンファレンス「AWS re:Invent 2022」の新サービスや発表の中から、特にIoTの活用やシステム開発で役立つ内容をまとめて紹介します。

技術向けのカンファレンスではありますが、キーノートや展示会場の様子といった、AWS re:Invent 全体にわたって解説していますので、お気軽にご覧ください。また、技術系については「AWS re:Invent 2022 / IoT 関連の新発表・新機能」として後日公開します。そちらもお楽しみに!

AWS re:Inventとは?

クラウドコンピューティングサービスを提供するAmazon Web Services(以下、AWS)が毎年行っている開発者向けイベントです。「ラーニングイベント」という位置づけであり、基調講演やセッションを聞くだけでなく、実際に何かを作ってみるワークショップやデモによる体験ができます。AWSを学びたい・活用したいと考えている方にとって、参加の価値があるイベントです。

AWS re:Invent 2022

AWS re:Invent(以下、re:Invent)は2012年より毎年ラスベガス(アメリカ/ネバダ州)で開催されています。2020年はCOVID-19を背景に完全オンラインで実施されていましたが、2021年、そして今回はオンラインとオフラインのハイブリッド開催となりました。
今年の登録者数数は現地参加で50,000人以上、オンライン視聴で30万人以上という規模でした(*1)。現地での様子は以下の通りです。

ベネチアン・コンベンション&エキスポセンターへと続く通路の様子

私はラスベガスの現地で参加しました。AWSにおけるナレッジ共有やコミュニティ拡大に貢献者に贈られる「AWS Hero」には re:Invent への招待があり、私はそれを利用して参加しています(ご招待いただき、本当に感謝です!)。

*1 【AWS Black Belt】AWS re:Invent 2022 アップデート速報 ― イベント概要より

キーノート「デバイスとクラウドをつなげるのは “当たり前” の時代へ」

AWS re:Inventでは、AWSの方針や発表を聞けるセッションが大きく2つあります。AWSの全体的な内容を扱う「キーノート(基調講演)」と、各分野の専門的な話題を扱う「リーダーシップセッション」です。ちなみに分科会(ブレイクアウトセッション)は、リーダーシップセッションよりも詳細という位置づけです。

さてIoTにフォーカスすると、4つあったキーノートにおいてIoTへの明確な言及や新発表はありませんでした。しかし、キーノート内での構成例やゲスト講演では、IoTデバイスからのデータ収集が描かれているシーンもいくつもあり「IoTは、もはや特別なことでは無い」ことが印象的でした。

シーメンス社では、同社のお客様Northvolt社の工場を例に「工場に “ロック” (死蔵) しているデータを解放し、クラウドとつなげる」として、大量のデータを処理 / 加工 / 利用する「データパイプライン」の解説をされています。

AWS re:Invent 2022 – Keynote with Adam Selipsky / 1:24:51~

大企業だけではありません。胃がんや肝臓がんといった固形がんの療法として注目を浴びているT細胞療法の確立を目指すスタートアップ「Lyell」社では、T細胞を扱う製造施設という現場=”モノ” とクラウドをつなげていると解説されていました。
図内左上に、Equipment(機器)との接続に AWS IoT Greengrass、そしてクラウド側では AWS IoT SiteWise で受けている様子が描かれています。

AWS re:Invent 2022 – Keynote with Adam Selipsky / 1:54:50~

他にも多くの企業の事例において、モノからのデータ収集や現場の制御というのは「当たり前」として語られており、それよりも「集まったデータ活用による、得られた成果」の解説が重点的でした。

IoTリーダーシップセッション「あらゆる “モノ” のソフトウェア化」

IoTをテーマにしたリーダーシップセッションは、キーノートに先んじて開催されました。
タイトルは「Unlocking business value and operational benefits with IoT solutions」です。邦題にするなら「IoTで加速する、現場の効率化とビジネスの価値」といったところでしょうか。IoT部門のバイスプレジデントであるAlsaied氏が登壇しました。

この写真は私が撮影したものです。偶然にも、収録カメラとの位置関係が似ていました。

本セッションでは冒頭で「IoTデバイスは140億を超えた」として、コネクテッドなテレビや自動車の例が紹介されています。また、インフラでの活用としては水質管理(Alsaied氏は中東出身で、より身近な課題とのこと)が例として挙げられています。

クラウドへデータを集めるというイメージが強いIoTですが、昨今はロボティクスと融合して、クラウドから現場を操作する事も行われています。その例として、調理用ロボを製造している Miso Robotics社の例が紹介されていました。

次に解説されたのは、ビジネスの進化に応じてデバイスも進化が不可欠なこと、そしてセキュリティ対策の更新といった付加価値の生みづらい仕事も不可避なことです。それらを支援する目的で、AWSのIoT向けアップデートはこの1年で35のアップデートが提供されました (参考: IoT カテゴリのアップデート一覧)。

また、昨今注目されているキーワード「デジタルツイン」についても、AWS IoT TwinMakerを工場で活用されている事例が具体的な動作と共に紹介されています。

後半では自動車を中心に、データを集める意義や活用の手段、そして新たなビジネスモデルの創出にAWSのIoTサービスがどのように役立っているのかをLG社をゲストに迎えつつ解説しています。中でも印象的なキーワードが「software-defined vehicles」です。

直訳すれば「ソフトウェア定義による自動車」となりますが、その意味は「(ソフトウェア化することで) 継続的な進化ができる自動車」です。 “ビジネスの進化に応じてデバイスも進化が不可欠” を software-defined で乗り越えていくといったメッセージです。この考え方は自動車のみならず、ハードウェア全般に適用できるのではないでしょうか。

最後は「IoTは、私たちの社会をよりよくする原動力」というメッセージで締めくくられました。

IoTはこれからのデジタル社会において不可欠な存在です。そのとき「つなげて集める、つなげて操る」が意識せずにできることが大切であり、その通信を提供する身として改めて「IoTの民主化=誰もが簡単に使える」の必要性を感じたセッションでした。

IoT リーダーシップセッションは動画で公開されています。日本語字幕もつけることができるので、一度はご覧ください。

自ら自社サービスを活用「ドッグフーディング」

IoTが「使える技術」であることを裏付ける1つとして、AWS re:Invent 会場を支える仕組みにもIoTが使われていました。

会場の混雑をカメラで判定・共有 ― AWS Panorama

AWS re:Invent の会場やセッションに入るためには、首から下げるバッジが必要です。このバッジは受付でもらうことができるのですが、時間帯によっては混雑します。その混雑状況をカメラで判断して共有しているのが「AWS Panorama」です。

AWS Panoramaは2020年リリースのサービスで、IPカメラのONVIF規格の動画ストリームを処理する仕組みです。この処理に機械学習が適用できるのですが、おそらく混雑状況を判定しているのだと思われます。

以下のように、各会場の混雑具合が表示されていました。サイネージの一番下に “Powered by AWS Panorama” と表示されています。

会場内に設置された「バッジ受け取り時間表示」サイネージ

実際のカメラは至る所に設置されていました。このカメラがAWS Panoramaと連動していたのかは不明ですが “VEN-140” (おそらく Venetian会場の140台目) という番号が振られていたので、そのくらいの規模で展開していたのだと思います。

Venetian会場内に設置されたカメラ

会場間の移動時間を算出 ― Amazon Location Service

AWS re:Invent は複数の会場に分かれており、その移動はシャトルバス等を利用します。そこで、会場間の移動がどのくらいかかるのかを見積もる仕組みに「Amazon Location Service」が使われていました。Amazon Location Service は2021年に登場した、地図アプリケーション構築に必要な機能を提供してくれる PaaS です。

移動時間はre:Inventのスマホアプリで見ることができ、ここにAmazon Location Service で算出された(と思われる)時間が表示されていました。フッタに “Powered by Amazon Location Service” と表示されています。

残念ながら、交通状況が考慮されているのか・シャトルバスの位置情報と連動しているのかについては不明でした。

Amazon Location Service による、シャトルバス運行の様子 (スマホ内アプリ)

20以上のデモ展示「デバイスとクラウドの融合 ~ Builders’ Fair」

展示会場「EXPO」には多くの企業が出展しています。中でも私の興味を惹いたのが「Builders’ Fair」です。ここには、AWSのメンバーやお客様による実機デモが数多く展示されており、実際の開発者との話もできるエリアです。私が記憶している限り20以上のブースがありました。

EXPO内、Builders’ Fairの様子 (AWS re:Invent 2022)

こちらのブースでは、ルービックキューブの解法を映像で紹介してくれるデモを展示していました。バラバラになった絵柄をカメラで読み込ませて、それをAIによる画像分析サービス「Amazon Rekognition」で認識して解法を導き出し、それを3D動画の動画でレクチャーしてくれるものです。カメラを活用したデジタルツインの一例と言えそうです。ちなみに私はルービックキューブは苦手なのですが、見事揃えることができ、アーキテクチャや仕組みももちろんですが、解けたことも嬉しかったですね (^^)v

バラバラになったルービックキューブ。この3分後には見事揃いました!

他にも、ビールサーバーをAWS IoT Coreとラズパイでロボ化したデモがありました。タブレットでビールを選ぶと注いでくれます。ロボットアームはmyCobotでした。ポイントなのは、どのハードウェアも1つから購入したり作ることができる事と、既製のビールサーバーを利用しているところです。

コップのピックアップから注ぐオペレーション、そしてデリバリーまで (映像を4倍速にしています)

アーキテクチャも紹介いただきました。図は右がデバイス側、左がAWSクラウドとなっています。

他にも光ったボタンを素早く押すゲームや、転がっているボールの色を見分けて振り分けるといったデモがされていましたが、ほとんどが AWS IoT Core を中心としたIoTのデモであり、ここでも「IoTは普通」という実感を得られたエリアでした。

おわりに ― つなげるのが当たり前の時代だからこそ

IoTという単語が世に広まるようになってから、はや10年近くが経とうとしています。
私は、IoTとは「遠くに離れたモノや、現場で起こっているコトをデジタル化する技術」とお伝えしているのですが、それが実現されてきているのを肌で感じることができました。また、IoTは今後のデジタル社会を支える基礎技術になることを改めて認識しました。

一方で、Builders’ Fairの展示のように「モノが動くと楽しい、面白い!」という、少し忘れかけていた気持ちも思い出させてくれる、そんなイベントでもありました。

“つなげる” のが当たり前の時代だからこそ「当たり前のように “つながる”」通信を提供していきたいと、“Still Day One” の気持ちで、これからもIoTプラットフォームを提供していきたいと思います。

最後は、空き時間で行ってきたヘリツアーで同乗者のWilliam-sanに撮っていただいた「レッドロックキャニオン付近からラスベガスを遠く望む Max」をお送りします。技術編も鋭意執筆中です、お楽しみに!

― ソラコム松下 (ニックネーム: Max)