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ソフトウェア系スタートアップのCTOが語る「IoTデバイス開発への挑戦」SORACOM Discovery 2023 セッションレポート

こんにちは。シニアソフトウェアエンジニアの伊大知です。

4年ぶりのオフライン開催となったSORACOM Discovery 2023、沢山のセッションも行われました。
皆様には臨場感と共にIoTに関する情報をお届けできたでしょうか。

私も幾つかのセッションに参加しました。
どれも興味深い内容でしたが、その中で「ソフトウェア系スタートアップのデバイス開発への挑戦」と題したセッションを紹介したいと思います。

なぜソフトウェア系スタートアップ企業がデバイス開発を始めたのか

今回登壇されたのは株式会社スマートショッピング CTOの長島 圭一朗 氏。
スマートショッピングは日用品・食品通販の価格比較サイトを運営するソフトウェア系企業でした。

しかし、なぜデバイス開発を始めたのでしょうか?

スマートショッピングは「ショッピングの未来をつくる」というビジョンを掲げ、消費者にとって最適なタイミングで安くて良いものを自動的に購入できるサービスの提供を目指しました。

最初は消費者の購買履歴を基に、購入の自動化ができるのではないか?と思い、価格比較サイトを運営していましたが、精度の高い自動化を実現することはできませんでした。これは消費者が通販と近所の日用品店の両方を使用することが原因でした。

例えば、消費者は通販でまとめ買い、日用品店はセールスが実施されていれば、そのお店で購入するという使い分けをすることがあります。

これでは通販で得た購買履歴を用いても正確な自動化を実現することができません。
ソフトウェアの限界を感じ始めたのです。

スマートマットという発想

重さを測れるマットの上に日用品を置き、この情報から消費データを集めることができたら?
オンラインではなく物理的に日用品の増減を追跡するという考え方です。

スマートショッピングは初号機の開発に取り組みました。

多くの課題があったものの、この発想は社外からポジティブな反応を得ることができ、自信が生まれたそうです。

ハードウェアの力を借りる事で物理世界からも質の良いデータを得るという発想は、ソフトウェアを専業としている同社には大きな挑戦であったことは、容易に想像できます。ハードウェア専門エンジニアがいないにも関わらず、この方法を選択したリスクを恐れない姿勢に筆者は勇気づけられました。

デバイス開発の長く険しい道のり

体重計を流用するというアイディアもあったそうですが、体重計と本デバイスでは異なる点がありました。体重計は必要時のみ身体が載りますが、本デバイスは日用品が常に載っている状態になるということです。そのため、体重計とは異なる仕組みが必要だったとのこと。
そこで、スクラッチから初号機を開発したそうですが、その道のりは苦労の連続だったそうです。

初号機の課題は以下のようなものでした。

  • 同じものを置いているのに違う値を計測(これが一番の問題)
  • ランプがないから正常に動いているのかわからない
  • 電源スイッチがない
  • 角にでっぱりがあり持ち上げづらい

しかし、先述したようにスマートマットという発想は社外から認められ、IPAから支援を受ける事になったそうです。
Monozukuri Venturesというベンチャーキャピタルからもメンタリングを受ける事になりました。
メンターにはソラコムのCEO 玉川も含まれいてい、実はここでもソラコムと出会っていました。

これらの支援を活用し、スマートショッピングは2号機の開発を始める事ができました。
初号機の課題を改善することに成功したものの、2号機にも課題は幾つもありました。
掃除ロボットとスマートマットを併用すると、掃除ロボがスマートマットにぶつかった時にスイッチが押され、電源が切れるという思いがけないトラブルも経験したそうです。

それでもユーザに使っていただいた結果、良好なフィードバックを得る事ができました。
そこで、PR活動をはじめ、量産するという決断に至りました。

量産をする上でも、様々な課題に直面しました。その一つが製品の品質や工程管理です。なにもかも初めてのことで、依頼先の工場との調整に苦労しながら品質向上や、スケジュール改善を求めていくことを行いました。

構想から2年

構想から2年を経て、サンプル品を手にしたときは感動したそうです。
センサーの誤差は1%まで向上し、電源スイッチはコストを考えて敢えて省いたそうです。
そして、2018年10月15日にサービスを開始しました。
この時、創業から4年が経過していました。

2022年8月にはSORACOM Air for セルラー plan01sが内臓されたスマートマットLTE版が発表されました。

筆者は、初号機に電源スイッチが無いことが課題だったのに掃除ロボのトラブルを経験して最終的にはそれは大きな課題ではないことに行き着いたことに感銘を受けました。

セッションを終えて思ったこと

登壇者の長島氏は、初めのうちは知識不足でとんちんかんな物を作ってしまった、よく調べれば、迷うことはなかったと仰っていましたが、筆者はこの道のりがドラマのようなサクセスストーリーだと感じました。
特に、

  • 専門のエンジニアがいなくてもリスクを恐れずに新しいことに挑戦したこと
  • 多くの課題に悩まされても最後までやり遂げたこと
  • 面白い発想を実現するための支援があったこと

これらの事が新しいモノを作り出す力になると実感しました。
IoTの活用はまだまだ新しいことへの挑戦の連続です。
ソラコムはそんな挑戦者の方々をこれからも支援していきたいと考えております。

― ソラコム伊大知(ニックネーム: Kotaro)