こんにちは、Customer Reliability Engineer (CRE) の加納です。
電源をつなぐだけで通信するエッジAIカメラ「S+ Camera (サープラスカメラ)」が SORACOM Arc に対応し、セルラー通信だけでなく Wi-Fi 経由でも利用できるようになりました。この機能追加により、大容量のデータをより安価な通信料金で送受信できるようになり、また、設置場所がセルラー通信の圏外であっても Wi-Fi 接続ができれば SORACOM プラットフォームのサービスを利用できるようになりました。
以下、はじめてS+ Camera シリーズ についてご覧いただく方にもご理解いただきやすいよう、前提から詳しく解説させていただきます。
S+ Camera とは
S+ Camera はソラコムが開発・販売する、エッジコンピューティングをサポートしたAIカメラです。SORACOM Air のセルラー通信を搭載しており、電源をつなぐだけで通信できます。また、内蔵カメラの映像を本体内のAIアルゴリズム (以下、アルゴリズム) で解析し、結果をSORACOMプラットフォームを通じてクラウドと連携できます。
上図のようにスタイリッシュなデザインや、屋外向けの防水・防塵モデルをご用意しています。アルゴリズムには、定期画像送信といったシンプルなものから、OCR(英数字読み取り)といった実用的なものを「サンプルアルゴリズム」として無償提供しています。また、高精度かつ多用途に渡るアルゴリズムとして、AIソリューションを展開しているAI Dynamics Japan提供のPackage 20TMも利用可能(有償)です。
これらアルゴリズムの入れ替えや設定変更も遠隔から行えるため、導入後も進化し続けることができます。
SORACOM Arc 対応の背景
上述のとおり、S+ Camera は電源を入れればすぐに利用できることが大きな特徴です。一方で、当デバイスのリリースから 3 年が経過し、ユースケースが拡充されていく中で、お客様からは以下のような要望をいただくことが増えてきました。
- 解析結果を頻繁にアップロードする場合は、既設のWi-Fi設備を流用して通信料を抑えたい。
- 山奥や地下などセルラー通信が圏外の場所でも S+ Camera を利用したい。
そんな中、昨年の SORACOM Discovery 2021で、セキュアリンクサービス「SORACOM Arc」をリリースしました。SORACOM Arc の詳細は「ユーザードキュメント」や「リリースブログ」を参照いただければと思いますが、簡単に説明すると「Wi-Fi 経由でも SORACOM プラットフォーム上のIoT向け機能が利用できるサービス」です。この度、S+ Camera は SORACOM Arc に対応することで上記のご要望を満たすことができ、より幅広いユースケースや設置場所で利用できるようになりました。
既存の Wi-Fi アップロード機能との違い
これまでも S+ Camera は Wi-Fi での通信は可能でした。ただし、下図のように SORACOM プラットフォームとの通信はセルラーを経由する必要があったため、例えば解析結果を SORACOM Harvest へ送信して SORACOM Lagoon で可視化したい場合などは Wi-Fi が利用できませんでした。
SORACOM Arc に対応したことで、下図のように SORACOM プラットフォームとの通信を含む全ての通信を Wi-Fi 経由でできるようになったことがポイントです。
SORACOM Arc による Wi-Fi 通信を利用できるのは、S+ Camera Design および S+ Camera WP です。
SORACOM プラットフォーム以外との通信などは SORACOM Arc を利用しない純粋な Wi-Fi 通信となります。詳細はユーザードキュメントを参照ください。
利用方法
以下を実施すると S+ Camera で SORACOM Arc が利用できます。
- 「エッジコンピューターの SORACOM Mosaic アプリケーションを更新する」を参照して、SORACOM-InventoryAgent を 0.3.18 以上、SORACOM mosaic system を 0.1.3 以上、SORACOM mosaic apps を 0.2.6 以上に更新してください。
- 対象の SIM グループで SORACOM Krypton を有効化してください。
その後、SORACOM Mosaic コンソールで対象の S+ Camera を選択し、[WIFI] タブから接続する SSID と パスワードを入力して、[Offload data by SORACOM Arc] にチェックを入れて [Apply] をクリックしてください。
デバイスが再起動して SORACOM Arc が有効になると以下の赤枠のようにデバイスのステータス下に SORACOM Arc のアイコンが表示されます。以降は全ての通信が Wi-Fi 経由となります。
Wi-Fi に問題が発生した場合の復旧方法
通信が SORACOM Arc (Wi-Fi) に切り替わると、セルラー通信側は切断されます。この状態で Wi-Fi 側に問題が発生すると、遠隔からS+ Cameraを操作する手段が無くなってしまいますが、このような状況下からセルラー通信を復旧させ、遠隔操作をする方法も提供しております。
S+ Camera に挿入されている SIM のタグに mosaic_monitor_ppp=enable を設定してください。
このように設定された S+ Camera は、Wi-Fi 通信の途絶状態が約 8 〜 10 時間経過すると自動的にセルラー通信による接続を開始します。これで、セルラー通信経由での遠隔操作ができるわけです。
タグの設定方法は「IoT SIM に付加情報 (タグ) を設定する」をご覧ください。
また、セルラー通信の回線状況は「IoT SIM の通信状況 (セッション) を確認する」をご覧ください。
通信料金の比較
では、SORACOM Arc を利用することで、どの程度通信料金に違いがあるのでしょうか。例えば、SORACOM プラットフォームとのデータ通信量が 1 GB/月だった場合、月額費用は SORACOM Arc を利用すると 165 円安価になります。(それぞれの料金の詳細はリンク先を参照ください。なお、インターネット回線の利用料金は除いております。)
- セルラー通信 (plan-D D-300MB)
- 基本料金:330 円/月
- データ通信料金:220 円 (※1)
- 合計:550 円
- Wi-Fi (SORACOM Arc)
- 基本料金 (plan-D D-300MB 分):330 円/月 (※2)
- 基本料金 (SORACOM Arc 分):55 円/月
- データ通信料金:0 円 (※3)
- 合計:385 円
- 差額:165 円
※1 plan-D D-300MB はバンドルに含まれる容量 (300MB) の超過時は、500MB単位で 110円がデータ通信料金として加算されます。1GB の通信時には 700MB 分の超過となるため、データ通信料金は 110 円 × 2 = 220 円となります。
※2 S+ Camera の SORACOM Arc 対応は、plan-D の基本料金も発生します。なお、plan-D のステータスを「利用中断中」や「解約」に変更した場合は SORACOM Arc も利用できなくなるのでご注意ください。
※3 SORACOM Arc は 1 GB あたり 22 円の通信料金が課金されます。ただし、毎月 1GB までは基本料金に含まれます。
同様に、1ヶ月あたりの SORACOM プラットフォームとのデータ通信量ごとに セルラー通信 (plan-D D-300MB) と Wi-Fi (SORACOM Arc) で月額料金を比較しました。
データ通信量 (上り・下り合計) | セルラー通信 (plan-D D-300MB) | Wi-Fi (SORACOM Arc) | 差額 |
---|---|---|---|
300 MB | 330 円 | 385 円 | – 55 円 |
500 MB | 440 円 | 385 円 | 55 円 |
1GB | 550 円 | 385 円 | 165 円 |
10GB | 2,530 円 | 583 円 | 1,947 円 |
20GB | 4,730 円 | 803 円 | 3,927 円 |
特に大量のデータを送受信する場合は、 SORACOM Arc を利用することで料金が削減できることが分かります。ユースケースに応じて通信を SORACOM Arc に切り替えていただき、料金を最適化していただければと思います!
― ソラコム加納 (kanu)