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現場ニーズに応えた、正統な進化 ― IoTの視点から振り返る AWS re:Invent 2023

こんにちは、ソラコムの松下(ニックネーム: Max)です。

この記事では、11月末から開催されたAWS (Amazon Web Services)の年次カンファレンス「AWS re:Invent 2023」において、特にIoT関連の動向や新発表についてご紹介します。

本記事は、12/7 開催のIoT勉強会「IoT-Tech Meetup」のレポートを兼ねています。

AWS re:Invent とは?IoT との関係性

AWS re:Invent とは、2012年から毎年行われている AWS主催のイベントです。「ラーニングカンファレンス」と表現されており、基調講演やセッションを聞くだけでなく、実際に何かを作ってみるワークショップやデモによる体験ができます。AWSを学びたい・活用したいと考えている方にとって、参加の価値がある有料イベントです。

米国/ラスベガスの主要5ホテルで、2,000近くのセッションやワークショップを5日間に渡って展開している大型イベントです。参加者は全世界から約50,000名、日本からは約1,700名が参加しました(*1)。

(*1) AWS Black Belt Online Seminar re:Invent 2023アップデート速報 より

CEO Keynote の一幕より (AWS re:Invent 2023)

私は現地参加をしています。この背景には、AWSにおけるナレッジ共有やコミュニティ拡大に貢献者に贈られる「AWS Hero」には AWS re:Invent への招待があり、私はそれを利用して参加しています(ご招待いただき、本当に感謝です!)。

AWS と IoT の関係

クラウドの使い道といえばWebサービスやゲーム、昨今では基幹系や金融といったシステム向けというイメージがありますが、IoTも例外ではありません。むしろ、人よりも数が多いIoTこそ、クラウドのメリットが得られやすいと言えます(クラウドコンピューティングの 6 つの利点も合わせてご覧ください)。

AWS は2015年にAWS IoT というサービスをリリース後、AWS IoT Core と改名をしつつ、IoT 向けサービスを拡充してきました。クラウドベンダーでありながらも、その範囲はリッチOS向けミドルウェア「AWS IoT Greengrass」や、マイコン向けRTOS「FreeRTOS」と、デバイスまで広がっています。

AWS re:Invent 2022 report Max @ SORACOM より。Dはデバイス向け、Cはクラウド上でのサービス、Mはデバイスとクラウド間を管理するサービス

AWS IoT の事例の1つに、携帯型育成玩具「たまごっち」シリーズの最新作『Tamagotchi Uni(たまごっちユニ)』があります。AWS IoT サービス群とサーバーレス(サーバーの運用を意識しないアーキテクチャ)が用いられ、長く遊び続けてもらえるデバイスが実現しています。事例の詳細は「大規模台数のたまごっちへ AWS IoT Jobs で高速かつ高効率にファームウェアを配信する方法」をご覧ください。

IoT 関連のアップデート ― 現場ニーズに応えた、正統な進化

AWS re:Invent 2023 におけるIoT系のアップデートを総括すると「現場ニーズに応えた、正統な進化」と言えるでしょう。

今回の中心は AWS IoT SiteWise(以下、SiteWise)です。SiteWise とは、Modbus TCP や OPC UA といった産業向けプロトコルのデータを AWS 上で蓄積・可視化できる、AWS クラウド上のサービスです。例えば対応プロトコルが増えたり、通信途絶といったオフラインでも動き続ける機能といった、現場のニーズに合わせたカイゼンを正統な進化と称しました。

SiteWise へデータを保存するには、プロトコル変換を行うミドルウェア「AWS IoT SiteWise Edge(以下、SiteWise Edge)」と併用するのが容易です。SiteWiseとSiteWise Edge の関係性は「AWS IoT SiteWise Edgeでデータを様々な場所に保存する方法」をご覧ください。

AWS IoT SiteWise / SiteWise Edge 関連

ここでは、SiteWise と SiteWise Edge に絞って、アップデートをピックアップしました。

多くのアップデートの中、特に「プロトコルのサポート拡張」と「ウォームストレージ層の提供開始」の2つは、SiteWiseの導入検討や運用コスト削減に効きます。

プロトコル対応は、 Domatica 社の EasyEdge(Docker コンポーネントで提供)を経由する構成となります。これで KNXBACnetといった設備制御プロトコルや、RESTインタフェースを持つデバイスのデータをSiteWise Edge経由でSiteWiseに取り込めます。

ウォームストレージ層は、SiteWise の「設定 > ストレージ」で設定できます。この設定に従って、自動的にウォーム層への移動がされ、保管費用も最大10分の1になります。

AWS IoT SiteWise を試してみる

ちなみに SiteWise はライブデモで体験できます。SiteWise の画面から「SiteWise デモ」で、データ出力をする仮想的な設備が作成されるものです。

この仕組みは AWS CloudFormation を使ったリソースの自動作成で実現されています。そのため、デモ中の費用は実際に発生します。SiteWise には無料枠が無いため、長期のデモやリソース削除のし忘れにはご留意ください

その他、IoT 関連のアップデートは以下の通りです。

FreeRTOS 関連

Amazon Monitron 関連

「Amazon Monitronが他リージョンのIICに対応」については https://aws.amazon.com/new/ で確認が取れず、BlackBelt スライドからの引用です

その他

AWS との組み合わせが効果的な SORACOM サービス

SORACOM は IoT の通信からクラウド連携までを「IoT プラットフォーム = 組み合わせができるサービス群」として提供しています。

IoT 向けデータ通信「SORACOM Air」でネットワークがない環境からでも AWS クラウドにつなげたり、閉域接続ができる「SORACOM Canal」、そしてデバイスから AWS Lambda を直接実行できる「SORACOM Funk」など、SORACOM を利用することで IoT の実装や運用がさらに軽減されます。事例や活用できるサービスについては「IoTシステム活用を加速するSORACOMとAWSの連携」をご覧ください。

AWS 自らが、AWS クラウドを活用「ドッグフーディング」や「Builders’ Fair」

2022年のレポートで「AWS は自らのサービスを使い、システム例を見せている」と紹介しましたが、2023年も同様に、カメラと機械学習による自動予測を実現する「AWS Panorama」による入場者バッジの待ち時間や、ホテル間を行き来するシャトルバスの運航や待ち時間算出に「Amazon Location Service」が用いられていました。

バッジの待ち時間とPowered by AWS Panorama (AWS re:Invent 2023)

展示会場「EXPO」では、今年も多くの実機デモが展示されている「Builders’ Fair」が開催されていました。これらのデモは、AWSのメンバーなどによって作られています。昨年は20近くのブースでしたが、今回は35以上と規模も大きくなっています。

EXPO内、Builders’ Fairの様子 (AWS re:Invent 2023)

Builders’ Fair では特にカメラ+機械学習を利用した展示が多く、カメラ活用のハードルが年々下がっていることを感じました。

ポーカーゲーム:カメラとYOLOv5による推論、MLモデル作成には Amazon SageMaker を利用 (AWS re:Invent 2023)
テーブルフットボールゲーム:ポーカーゲームと同様にカメラ+MLを利用 (AWS re:Invent 2023)

ジェスチャーで操るラジコン:ジェスチャー認識はMLで、操作はIoT Core経由でリアルタイムに伝達。車載カメラの映像は Amazon Kinesis Video Streams を通して表示 (AWS re:Invent 2023)

他にも、デジタルツインを実現する「AWS IoT TwinMaker」を用いて、蒸気ポンプの様子をリアルタイムに3Dモデルに投影するデモもありました。

蒸気ポンプの回転や温度をデジタルツインでリアルタイムモニタリング (AWS re:Invent 2023)

IoT と 生成 AI の関係

今年の技術トレンドの1つに生成AI(Generative AI)があります。ソラコムでも、2023年7月にChatGPTによるIoTデータ分析「SORACOM Harvest Intelligence」提供を開始するなど、生成 AI の活用をすすめています。AWS でも Amazon Bedrockを中心にいくつものアップデートがありました。

AWS の生成AIに対するスタンスは、CEOキーノート内のメッセージ「Reinventing with generative AI」すなわち “再発明” が主語であり、生成 AI はそのための方法論・技術の1つという位置づけです。

CEO Keynote ― 19:47~より

その具体例ともいえるデモを EXPO 内で見つけました。それが、3Dでデジタルツインを表現する「AWS IoT TwinMaker」と、AIアシスタントサービス「Amazon Q」を組み合わせることで、異常個所の特定や、適切な対処方法を回答してくれるデモです。

AWS IoT TwinMaker で故障個所を表示、右側のチャット欄には Amazon Q による次の手順が表示 (AWS re:Invent 2023)

こういった仕組みが実現すれば、専門知識が無くとも設備のメンテナンスや復旧が実施できます。生成AIは「ナビゲーションを助けてくれるCopilot ― 副操縦士」という位置づけです。費用をかければできる仕組みを、AWSでより簡単に実現できることを紹介していました。

現状では、マニュアルを読み込ませて検索できるようにする RAG(検索拡張生成)等が不可欠なため技術的ハードルはまだ高いのですが、生成AIを取り巻く昨今の発展具合を見ていると、かなり近い将来に簡易になると想像でき、今から楽しみでもあります。

生成AIではLLM等の性能やプロンプトエンジニアリングが話題になりますが、「Reinventing with GenAI」課題解決のための技術の一つとして受け止めることも大切でしょう。

まとめ

AWS re:Invent 2023 を IoT の視点から振り返ってみました。
キーノート等でIoTについての大きな言及は無く、またアップデートも現場ニーズに即したものが中心でした。これは2022年以上に「IoTが普通になった」ことの表れだと感じており、だからこそ、今が AWS を用いた IoT システム構築を学ぶ・利用するチャンスだと考えています。ぜひともチャレンジしてみてください!

次回のIoT-Tech Meetupは1/16(火)「Arduino UNO R4 深掘り会」

電子工作入門の定番マイコンである「Arduino UNO」は、最新版の「R4 Minima」が2023年6月に、Wi-Fi搭載モデルの「R4 WiFi」が2023年10月に販売開始となり、強化されたMCUや通信によって活用の幅が広がりました。

Arduino UNO R4の全体像やR3からのアップデートを解説しつつ、通信を用いたクラウド連携(もちろん AWS IoT Core との連動も!)ご紹介します。

すでにお申し込みページはオープンしています。お気軽にご参加ください。
オンラインでお会いしましょう!

― ソラコム松下 (Max)