本記事は、ASCII.jp(株式会社角川アスキー総合研究所)に掲載された記事より転載/再編集したものです。
元記事:https://ascii.jp/elem/000/004/292/4292665/ 文:大谷イビサ 編集:ASCII 撮影:曽根田元

あらゆるビジネスにとって「いま、現場で何が起きているのか」を可視化することが、重要になってきている。
映像や画像で記録し、それを分析して活用。データが溜まれば、やがて業務の効率化に結びつける──かつては大企業に限られた話だったが、いまでは小売店や飲食店、中小企業の小規模なオフィスなど、身近な現場でも、そんな取り組みが始まっているのだ。
クラウドカメラ「ソラカメ」とIoTオートメーター「SOARCOM Flux」を展開するソラコムの高見悠介氏さん、松下享平さんに、クラウドカメラが切り拓く新しい価値と、具体的な事例を紹介してもらおう。
クラウドカメラの低価格化で、現場はもっと身近になる
モノがつながるIoTのデバイス側のトレンドで大きく変わってきたのは、ネットワークカメラの低価格化だ。監視カメラのニーズは以前からあったが、数万~数十万円だったネットワークカメラが、数千円レベルで購入できるようになると、使い方自体が全然変わってくる。「コスト的に今まで1個しか置けなかったのに、10~20個置けるとなると、防犯用途以外の使い方も可能になります」と高見さんは語る。
今まで監視カメラのデータは録画しておしまい。問題があれば、あとから見返したり、データを取り出して分析するが、何もなければ見ないというのがほとんどだった。しかし、カメラを数多く置けるようになり、録画データをクラウドで管理できるようになると、現場をリアルタイムに見るという用途が現実的になる。
たとえば、ベイシアやコープさっぽろのような小売店は、生鮮食品の売り場にカメラを取り付けている。加工食品は入荷時に在庫DBに登録し、売れたらPOSに登録されるので、売れ行きを簡単に見ることができる。しかし、生鮮食品は白菜を1/4にカットしたり、肉をスライスしてパック化するので、実質的に在庫の管理が難しい。「結局は店頭の様子を見るしかないんです」とのことで、カメラで売れ行きを見ることにしているという。
既存のセンサーデバイスでは難しい用途も、「百聞は一見にしかず」ということで、カメラなら解決できる可能性も大きい。建設業であれば、人手で行なっていた現場監視をカメラで実現できるし、製造業であれば、工場に設置した機器のメーターを調べられる。上下水道の管理であれば、フィルターのつまり具合を確認できる。根底にあるのは小売、建設、物流、倉庫、プラントなど現場のある業種での人手不足。安価なカメラはこうした現場の課題を解決する1つの突破口として期待されている。
増え続けるカメラ画像 生成AIで簡単に扱えるSORACOM Flux
IoTとしてのカメラの価値。ソラコム松下享平さんは「最新の現場を人間がわかりやすい形で見られる」と「過去を振り返れる」という2つの価値を挙げる。ソラカメもこの2つを実現すべく、機能強化を続ける。複数のカメラ画像を一望できる「マルチビュー機能」は前者を、過去に向けて画像をさかのぼる「タイムラプス機能」は後者をカバーするものだという。

こうした監視カメラのソリューションは以前から存在していたが、前述のような安価なクラウドカメラの登場により、配置数を増やすことで、より広い範囲を、よりさまざまな角度で監視することが現実的になった。高価な高性能カメラですべてをカバーする「大艦巨砲主義」から、多くのカメラで範囲を拡げ、精度を高めていく、分散型のソリューションに変わってきているわけだ。
一方で、カメラが増えると課題も増える。一番大きな問題は、データが増大することだ。多拠点のカメラ画像を見るマルチビューと過去を振り返れるタイムラプスを両方ともオンにすると、当然ながらデータ量は一気に増大する。ただですら見切れない動画はますます見切れなくなる。こうした監視カメラの課題に対応するのが、AIになる。
IoTにおけるAI活用を容易にするのが「IoTオートメーター」を謳うSORACOM Fluxだ。IoTデータの処理フローを設計し、自動化するためのノーコードツールである。昨年からβ版が公開されていたが、3月に商用利用が開始されている。
専用画面からマウスクリックで設定 デバイスを制御
SORACOM Fluxでは、Webブラウザ上の設計画面である「App Studio」から、どのようなデータを取り込み、どのAIモデルでどのような処理を行ない、どんな可視化やアクションにつなげていくかを設計できる。ノーコードツールなので、設計もWebブラウザでのマウスクリックやパラメーターの設定で完結する。性能やコストを基準にしてAIモデルを選択し、どのような処理を行ないたいのか生成AIの日本語プロンプトで指定すればよい。
最近追加されたアップデートとしては、SORACOMのリモートコマンドが挙げられる。ダウンリンクAPIはデバイスに対する制御機能で、SORACOM Fluxから機能として呼び出すことができる。
デモで披露されたのは、SORACOMの水色Tシャツを着た人がカメラの前を通ると、信号灯がアラートを挙げるというデモ。ソラカメがモーション検知で、通過中を撮影し、画像を切り出してAIで画像解析。水色のTシャツを検出すると、SIM搭載コントローラーを介して、信号灯に接点信号を送るという仕組み。SORACOMからSIMが搭載されているデバイスへの指示に、ダウンリンクAPIが利用されている。


ポイントは接点信号で動くデバイスが世の中にはたくさんあるということ。ドアの開け閉めや照明や警告灯の点滅など、さまざまなデバイスで利用できる。「たとえば、工事現場のカメラで特定エリアに車両が到着すると、信号灯が光るみたいな仕組みをSORACOM Fluxから簡単に作ることができます」と高見さん。
手を動かしてみて、「生成AIが身近になりました」と言うユーザーも多いという。ソラコムでは、ソラカメとSORACOM Flux、生成AIを使う例として、IoT開発手順書「SORACOM IoT レシピ: IoTカメラで異常の検知と通知」を無料で公開している。「必要な機材の一覧やステップ毎の手順、プロンプト(生成 AI に対する指示)の例も記載されているので、このような仕組みをまずは作って試してみたい方には参考になると思います(松下さん)。

倉庫、スーパー、小売店舗 監視作業で進む自動化
SORACOM Fluxもユーザー事例も増えてきた。物流倉庫を運営する大塚倉庫は、SORACOM Fluxを活用することで、カメラを用いた監視作業の自動化を実現した(関連記事:大塚倉庫とソラコム、倉庫の侵入検知システム共同開発 SORACOM Fluxで短期構築)。
薬品の管理を行なう物流倉庫に社員以外の人がいるときは、不正侵入として検知する必要がある。ここで社員か、社員以外かを見極めるもっともシンプルな方法が見た目。そのため、ヘルメットや特定の色の作業着を着用していない人は、社員以外と見なすルールを定義。カメラ画像を一定間隔で分析することで、不正侵入者を洗い出すという作業が自動化できるわけだ。
もう1つのユーザー事例は、コープさっぽろ。運営するスーパーの生鮮食品の見守りにカメラを利用しており、お惣菜の値引率や遅廃率の低減につなげようとしている(関連記事:クラウド型カメラ「ソラカメ」でコープさっぽろが廃棄率削減に成功)。
コープさっぽろはソラカメを全109店舗に導入しており、生鮮食品売り場の画像を一定間隔で切り出し、店長が提出する日報に自動連携させていた。こうすると、「ピーク時に商品が並んでいなかった」とか、「製造から一定時間が過ぎた商品に値引きシールが貼られていなかった」といったオペレーションの不具合をチェックできる。実際に店舗で実施され、値廃率は3%改善したという。
ただし、利用が進むにつれ、日報に貼られたカメラ画像を店長が目視で確認することが負担になってきていた。店長の負担を減らし、業務改善を実現するために利用したのが、SORACOM Fluxを用いた自動化だ。SORACOM Fluxを用いて、対象となる商品のアノテーションを初期設定しておけば、あとは画像を自動検知し、売れ残っている商品数を洗い出すことができる。現在は実証実験の段階だが、精度が高まれば、人の稼働が大幅に削減できることになる。
自動化を設計するのは現場の担当者 ビジネスの変化に迅速に対応
ポイントはこうした自動化の設定をSORACOM Fluxなら現場の担当者で行なえることだ。ここまで紹介した事例においても、いわゆる情報システム部ではなく、店舗の運営部や、設備の管理担当といった現場部署がSORACOM Fluxで設定している。
現場部門のメンバーが自動化を設計できると、業務への適用が迅速だ。「業務にどれくらいのインパクトが出るか、コスト効果が出るか。現場部門の方はすぐに把握できます」と高見さんは指摘する。
当然ながら現場部門で設計できると、改善も早い。自然言語で処理を記述できるので、現場のニーズに応じた処理の変更も容易に行なえる。「検知する対象や状況が現場によって異なっていても、現場の担当が自然言語でモデルを微調整できます。生成AIで、現場主導のデジタル化は新しいステージに入ったといえます」と高見さんは語る。
他のノーコード・ローコードとの比較で言うと、SORACOM FluxのメリットはIoTデバイスの接続性だ。「市販のネットワークカメラの映像を生成AIで分析しようとすると、撮影した動画から静止画を切り出し、特定のサーバーにアップロードして、API経由で画像認識を呼び出すみたいなことをいちから開発する必要があり、時間と手間がかかります。SORACOM Fluxはセンサーやカメラなどのデバイスからあがってくるデータをインプットに、通知などのアクションをワンストップで実現できるため、処理を設計するところが圧倒的に楽です」と高見さんは語る。

もちろん生成AIの取り込みも容易だ。「生成AIの価値は、モデルの精度ももちろんですが、インプットするデータと、アウトプットを人間がどう判断するかで決まります。だから、さまざまなデータを取り込んで、サービスと連携できる方がよい。その点、SORACOM FluxではさまざまなIoTデバイスのデータを取り込んで、用途にあったAIで処理して、データをビジネスで利活用できます。人が見る範囲を超えた自動化を実現できるのがSORACOM Fluxの価値です」と松下さんは語る。
人手不足の今の日本において、クラウドカメラ+自動化の潜在的なニーズはきわめて大きい。たとえば野菜の盗難事故を防止したり、無人店舗を運営したり、来店客にパーソナライズされた提案をしたり、カメラで現場を捉えることで実現できるソリューションはさまざまだ。あとはアイデア。そのアイデアを具現化する近道が、まさにSORACOM Fluxと言えるのだ。
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