みなさんこんにちは、ソラコムマーケティングの熊崎です。
LoRaWAN Conference 2017のsession1「SORACOMプラットフォームのLoRaWAN対応 〜データ取得とクラウド連携〜 」講演書き起こしブログをお届けします。当日来られなかった方、ご都合の合わなかった皆様、LoRaWANとSORACOMのクラウド連携について興味をお持ちの方、ぜひご覧ください。
LoRaを利用し山岳遭難事故防止を目指す TRECK TRACK
博報堂アイ・スタジオ・川崎:広告制作会社がなぜIoTを使ったサービスの展開をするか、という事をご説明します。我々博報堂アイ・スタジオは広告制作を生業としており、コミュニケーションを作るプロとしてクライアントや社会課題のに対してテクノロジーとクリエイティブを掛け合わせた新しいものを作るということを、日々行っています。このTREK TRACKは山岳地帯、スキー場や、バックカントリー、登山の人の遭難予防や対策に、インターネットが届かない所でも位置情報を管理する仕組みです。
主幹である私と笹垣は普段はクライアントワークと研究開発を担当していますが、アウトドアの中にテクノロジーを取り入れて新しいことが出来ないか、と考え、社内でメンバーを集めて自主的にプロトタイプを始めました。私がテクニカル面の統括、笹垣がクリエイティブ統括をしています。
TREK TRACKは現在の冒険者にもっと自由を、帰りを待つ人に安心を、というコンセプトを元に人の動きをデータに変えるという新しいデジタルインフラを提供することを目的としています。
昨今、登山ブームで山に登る方が増えています。過去10年以上、国内での遭難者は右肩上がりを続けています。行政や山岳関係者は様々な対策や呼び掛けをしていますが、遭難が起こった際、対象となる人がどこに居るかの詳細はわからず、レスキュー隊が救助に現地に行き範囲を絞って捜索をするのが現状です。遭難発生時の通報も夜予定通り家に帰ってこない場合に家族が行うことも多く、初動が翌日になるなど、時間的な制約の中での課題もあります。また、レスキューにかかる費用や捜査の継続などコスト面の課題もあります。
我々はこれらの課題に対し、山岳地帯での人の動きをデータに変えるため、山中にゲートウェイを配置し、登山者が持つデバイスがLoRaWANを使って位置情報を送信します。都心部と比べ、山中は遮るものが少なく余計な電波干渉も起きにくいため、大体半径10キロ圏内をカバーすることが出来ると考えています。デバイスは1分に1回GPSデータを取得、送信し、ユーザはデバイスを持つだけでクラウドに定期的に位置情報が保存されます。これらのデータは一括管理され、家族や管理者がiPadやスマートフォンなどのブラウザで直感的に見ることが出来る管理システムも提供します。TREK TRACKでは位置情報を少しでもリアルタイムに、正確に把握することでこれまで行われてこなかった早期救助を実現したいと考えています。
SORACOMのサービスを使うことのメリットとしては、ゲートウェイの通信、SORACOM Beamによる自前サーバへのデータの転送など、LoRaWANの通信にかかる部分の多くをSORACOMのシステムが行ってくれるため、その分の実装時間などを全体の設計やデバイスの製造などサービスのクオリティをあげる重要な部分に使うことが出来たことです。がとても助かりました。
また、このTREK TRACKは山の中で何か問題があった時に押せるHELPボタンを想定しております。ボタンを押すとその情報がサーバーに上がり、問題が起きたことをすぐに家族にも知らせ、家族は行政、警察、消防に連絡するという早期救助に通じる行動を起こすことができます。
TREK TRACKは今年の秋頃にサービスインを予定しています。山に登られる方が身近にいたら、紹介していただけるとうれしいです。また、TREK TRACKシステムそのものが屋外環境での行動データを管理する様々な分野に応用できると考えておりますので、登山だけでなく、何かのサービスで導入されたい方や、使われたい方はお気軽にお問い合わせください。
安川:こちらも実用的なユースケースで、我々もこの実験に参加できたことを非常にうれしく思います。特に山に長くいるとスマホの電波も届くかもしれないけど、バッテリーが切れてしまう心配もあります。
川崎:実際は山中はほとんど電波が届かなくて、バッテリーももったいないため電源を切ることが、登山とかスキーとかに行かれる多くの人の心理です。
安川:その点LoRaだと、電源を入れたままでも心配ないというところが非常にうまくいくユースケースですね。
それではもう少しSORACOMのプラットフォームのLoRaWAN対応について、データ連携等をお話します。先ほど、SORACOM Beamでお客様の既存のアプリケーションと簡単に連携ができることをご紹介しました。他にも考えられるところがあります。既にクラウドを利用している場合、クラウドサービスに直接データを放り込めれば、サーバーすら立てる必要がないと言ったユースケースもありえます。このようなケースに対応出来る仕組みとして、SORACOM Funnelサービスをセルラーに向けて提供をしていました。これがSORACOM Air for LoRaWANにも対応します。
LoRaのデバイスからSORACOMにデータがきた際、お客様はあらかじめ利用するクラウドサービスのURLや認証情報をSORACOM側に設定すれば、それに従い指定のサービスにデータを送る仕組みです。当然LoRaのデバイスから直接クラウドのAPIをたたくことは、技術的に難しいですが、SORACOMで一旦受け止め、それを各クラウドサービスに合った形で送ります。
お客様が既に利用しているクラウドサービスと、LoRaのデバイスを簡単に連携できます。具体的にはLoRaWANで届いたデータを、例えばAmazonが提供しているAmazon Kinesis ストリームという、リアルタイムデータの解析に非常に便利なサービスに直接投げ込むことや、Amazonが提供するストレージサービス、データウェアハウスにデータを流すためのパイプのようなKinesis Firehoseと連携し、クラウド上の設定をウェブコンソールで指定しただけで、非常に高度なデータ解析システムを作ることができます。
MicrosoftのAzure Event Hubsサービスにも対応していますので、Microsoft Azure上の例えば、BIシステムやマシンラーニングのサービスを活用されるお客様は、そこに直接LoRaWANから集まるデータを届けることが可能です。
また簡単にデータをまず見てみたい、まず集めて何ができるか考えてみたい場合に、受ける先のサーバーを用意したり、クラウドサービスの設定をするというのは、少し敷居があるように感じられると思います。そういった声に応えられる仕組みも用意しています。
LoRaWANデバイスのデータをSORACOM Harvestで可視化
今回の新発表ですが、SORACOM HarvestもLoRaWANに対応しました。既存のアプリケーションにデータを送るBeamや、クラウドリソースに直接データを届けるFunnelの説明をしましたが、これらを利用するにはサーバーを用意しクラウドリソース側を準備する必要があります。一方でデータを簡単に見るだけであれば、このHarvestを利用いただけます。
こちらはLoRaWANのデバイスから届いたデータを直接SORACOMが管理するデータベースに保存して、かつSORACOMのコンソールの上でそのデータを確認、見ることができるサービスです。こちらのサービスは、利用が非常に簡単で、デバイスの設定の中でSORACOM Harvestという項目を有効化、あとはLoRaWANのデバイスからデータを送るだけです。LoRaWANのデバイスは直接SORACOMにデータを送るため、送られたデータはそのままSORACOMに入ります。
コンソール上でデータを確認を選ぶと、これだけで実際に送られてきているデータを見ることができます。実際に会場に設置されたLoRaゲートウェイを通じて手元のArduinoデバイスから送られたデータをHarvestで表示しています。
ご覧いただいた三つのサービス、SORACOM Beams、SORACOM Funnel、SORACOM Harvestは、冒頭で玉川が申しましたが、全て従量課金で利用いただける仕組みとして用意しています。1リクエスト当たりいくらという値段設定をしていますので、利用の仕方に応じ、本当に使った分だけの課金です。更に先ほどゲートウェイの所有モデルと、共有サービスモデルをご紹介しましたが、実際ゲートウェイを置いていただく方は、その月額料金の中でこのサービス利用料金が同額まで含まれています。月額料金まで追加料金なくこれらのサービスを使い、クラウドサービスやアプリケーションとの連携を行っていただけます。こちらが、今回お話ししたかったことの一つです。
まとめますと、SORACOM Air for LoRaWANは、ウェブのコンソールでLoRaデバイスを一括管理でき、データの下り方向の送信もAPIで制御できる仕組みです。更に既存のアプリケーションとの連携や、クラウドリソースとの連携、それから収集したデータの可視化まで、プラットフォームの機能を利用できる仕組みとして、今回、皆さまにお届けします。
最後に技術的ですが、実際のゲートウェイのマネージメントなどSORACOMにおけるLoRaネットワークの構築について詳細にお話しして終わります。
何度もお話ししているように、我々はPoCというProof of Concept(概念実証)のキットを販売しています。お客様に利用いただく中で、そこから三つのことを学びました。お客様の中にはゲートウェイをプライベートに占有して利用したい方、特定のお客様との間だけで利用したいという声を聞きました。またせっかくゲートウェイを買ったので、皆に使ってほしいという声も聞きました。これらは相反する要望です。
とはいえ、全てに応えることにはそれぞれ意味があると思い、このようなコンセプトを導入しました。LoRaネットワークセット、これはSORACOM独自の要望ですが、複数のゲートウェイで構成されるネットワークの論理的な集まりと思ってください。例えば、このブルーのゲートウェイは一つのLoRaネットワークセットで、論理的な集まりです。またグリーンは、また別のLoRaネットワークセットとして動きます。それぞれのLoRaネットワークセットは独立にプライベート、シェアード、パブリックという設定ができます。例えば、ブルーのお客様のデバイスは、ブルーのネットワークセットにだけ繋がることができます。こういった設定や、そのネットワークセットは公開し誰でも使って良いという設定を選べる仕組みです。
これは冒頭でご紹介した図ですが、プライベートネットワークと、共有ゲートウェイのネットワークは、それぞのネットワークセットが用意されているとご理解いただけると思います。そのため、このネットワークセットの設定を公開にすれば公開されますし、プライベートに設定すれば、そのお客様だけの専用のネットワークになります。実際、ゲートウェイ管理画面というのも、ゲートウェイを購入いただいたお客様には、ご覧いただけるようになる予定で、そこの中でネットワークセットという項目を設定すると、今のように公開したり、プライベートで利用したり、あるいは一つのお客様の中ですが、別の目的に利用したりといった利用の仕方が可能になります。
このゲートウェイとデバイスの関連付けの手順は、ネットワークセットという定義をすることがまず最初に必要です。ネットワークセットを定義し、そこにゲートウェイを入れ、それを公開か、プライベートにするかが選べます。実際使うデバイスは、コンフィググループ、グループ設定を作り、まずデバイスをグループに登録します。
このグループのデバイスは、このネットワークセットを使うという選択をコンソールやAPIですると、関係が紐づいて、利用可能になります。ネットワークセットには、プライベート、シェアード、パブリックかという設定をします。コンフィググループには、デバイスごとに共有の設定が可能です。例えば、SORACOM Beam、Funnel、Harvestの設定や、どのネットワークセットを使うかという設定を入れると、この仕組みが出来上がります。当然ながら同じゲートウェイですが、デバイスの目的によって違う設定を適用するってことはありえますので、コンフィググループとネットワークセットの関係は、一つのネットワークセットを複数のグループから参照できるような形です。例えば、ご自身のお持ちのネットワークで目的の違うデバイスがあった場合、当然共有してゲートウェイは利用可能です。
注意点としては、デバイスはまず関連付けのあるゲートウェイのみ利用可能ですので、全く関係のない隣のゲートウェイから送れるわけではありません。ゲートウェイは同時に一つのネットワークセットに属しますので、複数のネットワークセットに属するゲートウェイは、現状サポートしないことになっています。少し複雑ですがこの仕組みを使うと、LoRaネットワークセットとコンフィグの組み合わせで、自在に目的別のネットワークを構築したり、目的に応じて共有したり、それを制限したりということが、制御していただけます。この仕組みを使い、実際に我々も共有ネットワークモデルを提供する予定です。
先ほどの冒頭のキーノートで玉川がご紹介したSORACOM LoRa Spaceでは、今申し上げたネットワークセットの仕組みの中でもSORACOMが管理する特別なネットワークセットです。そこには誰もがゲートウェイを追加することができます。このネットワークセットについては、どなたでもデバイスをつないで利用することができる仕組みです。この仕組みが広がれば広がるほど、共に皆さんが使えるIoTのためのLoRaWANネットワークが出来上がっていきます。ソラコムはこのような仕組みに貢献することで、IoTのネットワークを広げたいと考えています。皆様もSORACOM LoRa Spaceを広げて、LoRaネットワークを構築していただく担い手になっていただけることを期待しています。こういった取り組みを通じ、ソラコムのビジョン『世界中のヒトとモノをつなげ共鳴する社会へ』を目指していきます。