みなさんこんにちは、ソラコムマーケティングの熊崎です。
LoRaWAN Conference 2017のsession2「LoRaゲートウェイとデバイス 〜デバイス開発と、無線連携〜 」講演書き起こしブログをお届けします。当日来られなかった方、ご都合の合わなかった皆様、LoRaWANゲートウェイ・デバイスに求められる開発手法やネットワーク構築についてご紹介します。
本セッションは、M2Bコミュニケーションズの渡辺様、ウフルの竹之下様、ファームノートの阿部様にご登壇いただきました。ぜひご覧ください。
大槻:今回のセッションはデバイス開発や他の無線通信との連携について、実証実験にご協力いただいた企業様の事例も踏まえてご紹介します。前半は各社のLoRaWAN実証実験事例を、後半はパネルディスカッションでデバイス開発の勘所についてお話を伺います。
最初に、M2Bコミュニケーションズ取締役の渡辺 誠様、お願い致します。
LoRaWANの特徴とデバイスの工夫
M2B・渡辺: LoRaデバイスは、LoRaモジュールのアンテナ、マイコン、センサー、バッテリーで構成されています。センサーからシリアルでデータを読み取り、マイコンでシリアルを使いLoRaモジュールに送り、それがクラウドへデータとして出ていきます。
920MHz帯、免許がいらないアンライセンスバンドのため誰でも利用可能だが、日本の技術適合に対応している必要があります。920MHz帯は、ARIB T108というスタンダードを満たす必要があります。M2Bのデバイスは、技適を満たしていますが、インターネットで購入可能な海外のLoRaデバイスは技適を取得していないため利用不可のケースがあります。
GPS、超音波、気圧、温度、湿度、ガス系では一酸化炭素、二酸化炭素、マイク、傾き等を感知する様々なセンサーが出ています。インターフェースは、シリアルのUARTやSPIを用途で選びます。
ソリューションは、まず何をやりたいかを考える必要があります。橋梁、鉄塔など設備監視、土砂崩れの検知、河川の水位監視、というアプリケーションに、各種センサーを組み合わせます。
例えば水量監視のために水位を測定する場合、水からセンサーまでの距離を測るために超音波センサーで数値測定しました。マイコンで処理し、LoRaのモジュールでデータを送信します。防水ケースに超音波センサーと電池を入れた場合、5分に1回の頻度の測定だと2年から3年電池をもたせることも可能です。。このデータをクラウドへと送り、水量の可視化を実現しています。
先ほどの水位測定や地滑り監視センサーを本日は展示会場に設置しています。地滑り監視の仕組みをご説明します。加速度センサーを入れた杭型デバイスは、倒れた時に通知がクラウドに届き、地崩れ等何かが起こったことが感知できます。また地滑り感知センサーは紐が付いており、引き抜かれた場合にもセンサーが稼働します。電源を長くもたせるため、物理センサーを組み合わせています。雨量測定センサーの場合は、太陽電池を併用しています。
LoRaWANの特徴に、Confirmed Data Modeがあります。これはデバイスからデータを送る時に、LoRaサーバーからACKが戻ってくることにより、データがきちんと送信されたことが分かり、LEDを点灯させることができます。
PoCキットのGPS Boxは、ArduinoのLoRaのシールドにGPSが載り、様々なセンサーと組み合わて実証実験を行うことができます。Arduinoは8ビットのワンボードマイコンで、IoTの様々なPoCや実証実験に適しています。開発環境も徐々に整ってきており、デバイス開発の相談を頂くことは増えてきました。もし何かありましたら、ぜひご相談ください。
大槻:続きまして、株式会社ウフル IoTイノベーションセンターの竹之下様より、屋内のソリューションについてご紹介いただきます。
LoRaで作るシンプルなシステム構成
ウフル・竹之下:LoRaWAN PoCキット提供開始後、インテグレートや、コンサルティングを提供するパートナーになりました。ウフルはクラウドインテグレーターでしたが、IoTを始めるのにデバイス側の知識を持つ人間を採用し、現在5名ほどの体制でIoTに取り組んでいます。私はウェブと組み込みにこれまで関わってきたため、IoTに関わる上下両方のことが分かります。今回の事例紹介では屋内でどのように使っているかをご説明します。
LoRaの通信モジュールにBLEの通信ができるマイコンを付けます。そして人やモノにビーコンのタグをつけ、それがどこにあるかをモニタリングするシステムを作りました。例えばウフルのオフィス図の青い丸がある所に、このLoRaの通信モジュールとBLEを受信可能なモジュールが一体型になったものを置きます。そして、共用のノートパソコンにつけたビーコンや、人の入館証につけたビーコンをスキャンすることで、モノがどこにあるか、誰がどこにいるかをモニタリングしています。ウフルのenebulerを使いライブボタンを押すと、リアルタイムに誰がどこにいるか、人の動きが表示され、過去に設定するとある時刻で誰がどこにいたかが分かるシステムを作っています。
システム構成は、基本的にLoRaのモジュール、ゲートウェイ、SORACOM Airを通り、我々が作ったシステムにたどり着きます。システムのパターンが決まっていることがポイントです。
元々クラウドインテグレーションを行ってきたチームですが、LoRaを使い何かを作ることが非常に簡単にできます。なぜならサーバーから見るとHTTPSでデータが送られてくるだけなので、システム構成が非常にシンプルです。このシンプルさはSORACOMのLoRaWANシステムの特徴です。今回作ったデバイスは、LoRaの通信モジュール、コマンドを叩くホストコントローラー、それにつながるセンサー、この三つのモジュールで構成されています。
LoRaの通信モジュールをたたくホストコントローラーに、Bluetooth Low Energyの通信機能が付いたmbedというマイコンを利用しています。マイコンとLoRa通信モジュールはシリアルの通信線でつながっており、シリアルでATコマンドをたたくと、LoRaでデータが送信されます。実際に利用するATコマンドは、バージョン確認を含め三つのATコマンドのみ使っています。データ送信は一個のATコマンドな為、一個覚えれば何かデータを送り、LoRaを経由し最終的にはHTTPS、つまり、SORACOM Beamを使ってでデータが送信されるシステムを構築できます。
毎回このボードを起こすのは、様々なセンサーを繋げる際に面倒だと思い、センサーデータの送信をBLEで無線化しました。例えば、温度センサー、照度センサー、またはその二つを繋げることもできます。GPIOを使って、罠がかかったときに、物理的な接点が外れたとかを検知する仕組みもできます。LoRaで取ってきたデータは、共有モデルが今回出ましたので、いろんな人と共有ができます。今後はデータの活用方法についても取り組んで行きたいと考えています。
ビーコンを使った物品管理ソリューションは、世の中にたくさんありますが、大体Wi-Fiや3G、LTEの通信モジュールをそのまま利用しています。Wi-Fiを利用した場合、デバイス側の電池の消耗が多くなります。この辺りはLoRaで改善できる余地があると考えており、取り組んでいるところです。一方、LoRaは1パケット当たり11バイトの縛りがあるので、データをどのように飛ばすかは工夫のしがいがあります。
ビーコンを使った位置情報ソリューションは色々と存在しますが、補正をしないと誰がどこにいるか、近くにあるかが、正確に取れません。そのため生データが欲しいと思い、自分たちで作りました。将来的には、一つのシステムを共用化し、プラットフォーム化して様々な用途に使うことで、多数のデバイスを使いコストを下げていきたいです。SORACOM LoRaWANの共用モデルでは、やはりデバイス200個以上は利用しないと、安くはなりません。デバイス1個、10個であれば、3GのSORACOM Airを使ったほうが多分安いです。そのため200〜300、あるいは1,000個以上の広がりを持たせるためには、共用化が必要になると思います。
牛の行動を観測にLoRaを利用し、きめ細やかな飼育を実現
大槻:続きまして、株式会社ファームノート様のデバイス開発マネージャー 阿部様です。
ファームノート・阿部:北海道帯広市から来ました。今日はまず、弊社の取り組みと開発しているデバイスについて、次にLoRaWANの実証実験をご紹介します。
ファームノートのコンセプトは、『世界の農業の頭脳になる』で、世界で最も生産データを持ち、誰もが高い効率で農業生産をできる世界を目指しています。従来、酪農の世界ではノートに書き込んだり、分娩の管理をする表を使ったり、酪農家さんが使いにくいコマンド入力が必要なソフトウェアを使うなど、データを活用した経営が行いにくい状況でした。そこで我々は、『牧場を、手のひらに。』をコンセプトに、クラウド型牧場管理システムのファームノートを開発しています。
従来は作業中におかしな牛がいたら事務所に戻り台帳を見るのですが、スマートフォンやPCを用いて牛の目の前で確認ができるようにするコンセプトです。
去年の夏にファームノートカラーという牛向けのウェアラブルデバイスを発表しました。これは牛の首に加速度センサーとBLEを使ったデバイスを付け、牛の行動を観測するものです。牛の活動量を測定してクラウドに転送、牛群管理システムのファームノートと組み合わせて、牛のきめの細かい飼養管理を行うシステムです。牛の首に付けたセンサーから活動量や、活動を元に機械学習を使って発情レベルを算出したり、牛の24時間の動き、例えば反芻や活動睡眠時間を分類します。牛の飼養環境を良くすることで、人間の利益も向上します。
また昨年の夏に人工知能とIoT、そして農業という枠組みで、『世界の農業の頭脳になる』を実現するために、我々とグループ会社のスカイアークでファームノートラボを立ち上げました。そこでソラコムやM2Bと一緒に、牛の動線管理をLoRa用いて実証実験しました。
北海道の上士幌町にある86ヘクタールの十勝しんむら牧場で実証しました。PoCキットのGPSトラッカーは牛につけるにはサイズが少し大きかったため、防水のお弁当箱を購入し中にPoCキットをばらしていれ、牛の首に取り付けました。車のインバーターから電気を取りゲートウェイを設置し、GPSトラッキングの実証実験を行いました。牧草地から搾乳舎への移動が取れたり、放牧地の中の移動距離が取れました。この実証実験で取り付けた5頭は、個体ごとの移動距離差や個体による特性、日陰を好むものや牧草地の中心を好むなどの情報がわかりました。このようなデータで様々な牛のきめの細かい飼養管理が可能になっていくと考えています。
LoRaWAN Conference session2 全文書き起こし(2)に続きます。
LoRaWAN Conference session2 全文書き起こし(2)では、11byteしかデータが送れないLoRaデバイスに対してどのような形でデータを取得し、処理環境はどこに置くか等、実証実験を通じて得た知識やアイディアを共有いただきます。