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地方創生のIoT事例 ― 100年続く関西のメーカー、首都圏のEVスタンド、高齢化社会と地域交通

10/23に開催されたIoTコミュニティのオンラインイベント「SORACOM UG Explorer 2021」では、地方の課題に取り組む方をお招きしたパネルディスカッションをはじめとして、老舗素材メーカーの現場のIoT化、電気自動車の充電スタンドの取り組み、少子高齢化の移動難民の課題を解決するオンデマンド交通など、多岐に渡るIoT事例をお話しいただきました。本ブログでは、具体的な事例を3つご紹介します。

SORCOM UG Explorer とは?

IoTやSORACOMについて共に学び合うコミュニティ「SORACOM User Group」が開催する年次イベントです。

100年続く老舗素材メーカーが挑戦!工場のIoT化

トーア紡コーポレーションは、2022年に100周年を迎える老舗の繊維メーカーです。長年使われている機械が多く、人の手を介した仕事が残っていた紡績工場で、短期間で実現した3つのIoT事例をご紹介します。

電力の見える化を2週間で実現 「小さな成功で流れを作る」

最初に取り組んだのは、四日市の工場における電力使用量の見える化です。
工場のPLCから電力使用量を取得し、工場内/スマートフォンからダッシュボードで見える化しました。この仕組みはなんとたったの2週間で実現し、取り組みが社内で評価され、他のチーム・工場へもデジタル化の横展開が進んだとのことです。

窯の温湿度を遠隔管理 「働き方改革」

2つ目は、岡山県にある工場の薬品の反応窯の温湿度の管理をしました。
これまでは、休みの日でも夜中でも温湿度が気になる時は、工場現場まで行く必要がありました。紡績工場では温湿度の管理がとても大事になるようですが、今では家にいても稼働状況を監視できるようになり働き方が変わったようです。

40年目の大変革!既存機器を活かしたままデジタル化 「レトロフィット」

3つ目は、既存機器を活かしたままデジタル化をする「レトロフィット」への挑戦です。
工場内の機械自体は古くから自動化が進んでおり、省力化は実現されていました。しかし、機械の稼働実績データは人手によって行われており、生産効率の計算やメンテナンスの目安がわかりづらかったそうです。

例えば出来高報告は、棒状の機械からパルスの信号を拾い横に設置した電卓に表示され(電卓を「ディスプレイ」として利用している)、定期的にスタッフが数字を確認しカウントするという40年間変わらない方法がとられていました。

出来高が表示された電卓

生産ラインには特殊な機械もあり、デジタル化に伴う機器の停止やトラブルをできるだけ回避したいという現場の要望もありました。そのため機械には手を加えず、デジタル化を実現するレトロフィットにチャレンジされました。

具体的には機械からの信号をModbusと呼ばれる通信に変換し、その後ソラコムのパートナー企業でもあるKYOSOの「MORAT GW」 が集約し、SORACOMを経由してクラウドにデータを集めています。稼働中の機械へポンっと取り付けるだけで動くようになっており、手を加えずに34機の機械のデジタル化に成功したというお話をいただきました。

当日の発表資料を共有いただきましたので「現場からの生の声」としてご覧ください。

電気自動車の充電設備監視をRaspberry Piで実現

電気自動車(EV)の充電設備を作り、首都圏を中心に日本全国へ設置展開をしているユアスタンドからは、設置の苦労や解決策について知見を共有いただきました。

これから迎えるであろうEV時代に向けて、充電設備は不可欠です。一方で、この充電設備はガソリンスタンドとは異なり、例えばマンションの駐車場といった場所にも設置されることから、遠隔監視の仕組みも必要です。同社では、幅広く利用されているマイコンボードのRaspberry Piを利用し、充電設備の制御をしています。加えて、SORACOMの通信により、設置環境を問わず遠隔監視を実現されています。

IoT の苦労「電源が勝手に抜かれている!?」

苦労の1つとして共有いただいたのが電源のお話でした。「充電設備が動いていない!」と設置先からの緊急連絡が来た際、遠隔で調査してみると通信状況は良好、制御用のRaspberry Piも問題がなく、何が起こっているのか…と調査を続けていると、なんと「中継用のWi-Fiルーターの電源を管理人さんが抜いていた」事が判明。このような問題1つを対応するにも、デバイス側なのか、ネットワーク側なのか切り分ける必要があり、幅広い知識が求められることがわかりました。

地下駐車場でトラブルが発生した際に利用したチェック項目

モバイル回線が使える箇所では、SORACOMをご利用いただいています。設置後に制御ソフトの更新が発生したのですが、その数200台。充電設備の設置先は首都圏が中心ではありますが、1つ1つ回っていたら時間も費用もロスしてしまいます。
そこで、デバイスへのリモートアクセスを可能にするSORACOM Napterというサービスを利用したことで、人手を使った場合の試算と比べて80%以上もコストカットできたとのことでした。

こちらも当日の資料を公開いただきました!ここで紹介した以外の苦労話もありますのでご覧ください。

外出して健康促進!デマンド交通サービス

コガソフトウェアは高齢者の外出を助けるため、予約型の乗合タクシー「デマンド交通」を日本各地の自治体に提供しています。

バスでもない、タクシーでもない「デマンド交通」とは?

少子高齢化が社会課題となっているのはご存じのとおりですが、地方になるとさらに「移動手段が限られる」という問題を抱えます。運転免許の自主返納制度もありますが、返納率は最大でも東京の7%、地方に行けば行くほど返納率は低いとのこと。これは、地方において自動車は欠かせない存在であることを意味しています。
デマンド交通とは、決まった時間・経路を走るバスとは異なり、利用者の予約があった場合のみ運行する仕組みで、タクシーとバスの良い面を組み合わせた交通です。

誰でも使ってもらいたい、だから「電話」

実際の利用ですが、利用者が電話やスマートフォンから予約し、システムが条件を満たす最適な予約候補を提案します。面白いのは、一見アナログ対応のように見える電話対応をするコールセンターを設置することで、使い慣れた電話で予約できる点です。アナログのメリットを残すことで、利用希望する方を取りこぼさず、サービスを提供できます。

デマンド交通の運用イメージ

精度の高い配車にSORACOM活用

デマンド交通のポイントは、車両のリアルタイム管理になります。申し込みに対して、どのくらいで配車可能かを把握することが利便性につながります。SORACOMのSIMはタクシーに搭載され、リアルタイムの車の位置をシステム側で管理できます。さらに、予定していたルートと実際に車が通ったルートのデータを管理することで、より精度の高い配車が可能です。

地方だからこその社会課題をテクノロジーで、しかもご年配の方にも馴染みの操作で使っていただける点が、実際の普及につながっていると感じています。当日の資料にもその様子が公開されていますので、ご覧ください。

動画や他のセッション資料も公開中!

SORACOM UG Explorer 2021 は動画を公開しています。また、ここでは紹介しきれなかったIoT事例も SORACOM UG Explorer 2021 のページに掲載されていますので、ご覧ください。

最後に

数ヶ月前から本イベントの準備をしてくださったスタッフの方、登壇者のみなさま、学びの多い時間をありがとうございました!

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ソラコム 熊崎奈緒(nao)