こんにちは、ソラコムの松下(ニックネーム: Max)です。
このブログでは、2024年12月に開催された AWS(Amazon Web Services) の年次カンファレンス「AWS re:Invent 2024」において、IoT を中心としたレポートをお送りします。
AWS re:Invent と2024年の実績
AWS re:Invent とは、2012年から毎年行われている AWS主催のイベントです。「ラーニングカンファレンス」と表現されており、基調講演やセッションに加えて、体験型のワークショップやデモがあります。AWSを学びたい・活用したいと考えている方にとって、参加の価値がある有料イベントです。
2024年は12/2 ~ 12/6の5日間にわたって開催され、参加者は現地で6万人超、基調講演のオンライン視聴は40万人を超える規模でした。
私は、AWS ヒーローという「AWSコミュニティを牽引し、技術的知識と経験を共有するエキスパート」として本イベントに現地参加しました。
AWS と IoT の関係
クラウドとIoTはとても深いつながりがあります。IoTデバイスが収集する膨大なデータを効率的に管理・分析するには、クラウドのスケーラビリティや高度な処理能力が欠かせません。
AWS の IoT 向けサービスは「データ処理・活用」「デバイス開発・管理」「特定用途」と3つに分類できます。それぞれのサービスは以下の通りです。
- データ処理・活用
- AWS IoT Core ― デバイスと AWS をつなげるゲートウェイサービス
- AWS IoT Analytics ― IoT 向けストリームデータ処理・分析サービス
- AWS IoT Events ― IoT の状態変化の検知、処理を行うイベント管理サービス
- AWS IoT TwinMaker ― デジタルツイン構築サービス
- Amazon Kinesis Video Streams ― 映像データをリアルタイムで収集・処理するストリーミングサービス
- Amazon Location Service ― 位置情報アプリ組み込みサービス
- デバイス開発・管理
- AWS IoT Greengrass ― エッジデバイス用ランタイムとクラウドサービス
- AWS IoT ExpressLink ― セキュアかつ容易に AWS IoT 接続を実現するハードウェアモジュール群
- FreeRTOS ― マイクロコントローラーおよびマイクロプロセッサ向けオープンソース RTOS
- AWS IoT Device Defender ― IoT デバイスの全体とセキュリティ管理サービス
- AWS IoT Device Management ― IoTデバイス登録・編成・監視・リモート管理サービス
- 特定用途
- AWS IoT SiteWise ― スマートファクトリー向け垂直統合(データ収集・分析・管理)ソリューション
- AWS IoT FleetWise ― コネクテッドカー向け垂直統合ソリューション
実際には、これらのサービスと Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) といったストレージや、生成 AI サービスの Amazon Bedrock 等、他の AWS サービスと組み合わせてアプリケーションを作っていきます。
IoT 関連のアップデートと、ユースケース主体の紹介への転換期
AWS re:Invent 2024 においては、イベント開始前に以下のようなアップデートがありました。
- AWS IoT Core で、MQTT メッセージをエンリッチする機能と権限管理を簡素化する機能を追加
- AWS IoT SiteWise が生成 AI を活用した新しい産業用アシスタントを発表
- AWS IoT Device Management のコマンド機能の発表
- AWS IoT Core for LoRaWAN announces new feature enhancements
- ※ LoRaWAN ゲートウェイデバイスでの IPv6 の利用や、Firmware Update Over-The-Air (FUOTA) のサポートが追加
詳細はそれぞれの記事やドキュメントをご覧いただくとして、総じていえば今回のアップデートは IoT 以外のサービス群と比較すると少量かつカイゼン向けでした。
キーノートでの華々しい発表こそ減少しましたが、逆にブレイクアウトセッションで AWS IoT 関連の情報を多く目にするようになりました。例えば「Closing the machine-to-cloud gap to jump-start digital transformation (MFG206)(DXを加速―現場とクラウドのギャップを埋める)[動画]」というセッションでは、物流ソリューションを提供しているレーリッグ パシフィック社の事例が登場しました。
継続的なカイゼン・進化を実現するために、AWS IoT SiteWise をはじめとしたサービスで、プロトコルや機器メーカーからの依存を減らしています。
AWS Japan 社より、同セッションの解説ブログ記事が出ています。
AWS re:Invent 2024: AWSが製造業のデータ活用課題解決策を提示 – IoT SiteWise活用事例
こちらも併せてご覧ください。
IoT 自体、すなわち「現場とクラウドをつなげる」という仕組み自体は出揃い、クラウド上でのデータ分析や生成 AI 活用といった「知性」としてのエコシステム・サービスの拡充という、新たなフェーズを迎えたことを意味していると考えています。
技術面では「AWS IoT Core 接続を、より簡単に」
展示会場(EXPO)での AWS における IoT 展示の主体は、AWS IoT Core との接続をより簡単にする点が強調されていました。特に目立ったのは部品レベルから完成品まで、様々なレンジでの AWS IoT Core Ready な製品展示です。
AWS における IoTアーキテクチャでは、AWS IoT Core は主要な接続起点として広く利用されています。これは、Web 系システムであれば Amazon API Gateway を用いるのと同等の構成と言えます。そのため、AWS IoT Core への接続が容易であればあるほど、現場と AWS の距離が近くなるわけです。そのためのデバイス群と言えるでしょう。
機器の継続的なアップデートを支える仕組みも AWS で行えます。組み込み Linux ディストリビューション構築ができる「Yocto」を AWS 上で用いてビルド(構成)し、AWS IoT Greengrass で配信・更新するデモが展示されていました。一般的には制御機器内のソフトウェア更新というのは困難とされていますが、CI/CD(継続的インテグレーション・デリバリー)といった開発手法が可能であることを示していました。
個々の部品・サービス解説に加えて、PLCや生産ロボット・ラインを組み合わせたトータルソリューションの展示もありました。下図は、e-Bikeの生産ラインを模したデモです。
Amazon Q Business に見る、IoT と生成 AI の関係性
生成 AI の有用な活用例は、現在のところ「チャットボット」ではないでしょうか。この流れは IoT でも同様です。具体的には、2023年にコンセプトとして存在していた「異常個所の特定や適切な対処方法を、生成 AI が回答する」仕組みが現実のものとなっています。
「Building a smart factory with Amazon Q Business (MFG306)(Amazon Q Business によるスマートファクトリー)」では、IoT SiteWise で集めた データと Word(docx) 形式の社内ドキュメントを Amazon Q Business に集めて、AI に分析・障害発生時の対策を回答させるワークショップを行いました。
Amazon Q Business とは、業務データや社内情報に基づいて質問に回答して作業を支援する、生成AI搭載のビジネスアシスタントです。ドキュメント取り込みからアプリ構築までを一気通貫で行えるサービスです。これまではRAG(検索拡張生成)等の仕組みを作る必要がありましたが、Amazon Q Business はそれらを包括した形で提供してくれます。
ワークショップでは、以下のように「レシピに基づくと、沸騰温度は何℃になるのか?」(現状は英語)といった問いに対して、センサーから得られたデータと、なっているべき状態の回答や、その根拠となっているドキュメントを提示してくれています。
このように、現状把握と対処を簡便化してくれるのが、IoTと生成 AI の今すぐ役立つ関係性と見ています。
クラスメソッド社 より、同ワークショップの解説ブログ記事が出ています。
Amazon Q Businessでスマート工場を構築する「Building a smart factory with Amazon Q Business」に参加しました
こちらも併せてご覧ください。
チャットボット以外の生成 AI × IoT の可能性や今後のユースケースについては
「IoT×生成AI」5つの活用法 生成AIがIoTを次のステージに ― BUSINESS NETWORK
をご覧ください。
まとめと、これからへの期待
私は2015年のAWS IoT発表時から、一貫してIoT視点でAWSの進化を追ってきました(振り返ると今回で6回目の参加でした)。アップデートの所でもご紹介した通り派手な発表は少なく、また、AWS IoT 1-Click のサービス終了といった事もあり、IoT がひと段落したのでは?という意見もいただきます。
セッションやワークショップに見るように「つながっているのは当たり前で、そのデータをどう扱うか?」という考え方、すなわち、IoTがPoCから実践投入のフェーズに成熟したことを示しており、データの扱い方に焦点が移っていると確信できた、そんなイベントでした。
デバイスやセンサー、カメラをクラウドにつなげる事は課題や技術的な挑戦が残りますが、私も現在の立場から、今後もIoTとクラウドの関係を追うと共に「IoT のつながるを簡単に」を提供できるよう、引き続き頑張ってまいります。
― ソラコム松下 (Max)