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SORACOM Discovery 2025 基調講演レポート

現実世界とAIが出会う交差点から、次の10年へ

ソラコムは、2025年7月16日に年次カンファレンス「SORACOM Discovery 2025」を開催いたしました。10回目の開催という節目を迎え、「Crossroad(交差点)」をテーマに、IoTがつなぐ現実世界のデータ、クラウド、AIといったテクノロジー、ビジネスデータが交わることで生まれる、新たな変革とIoTのその先の姿についてご紹介した本イベントは、終日熱気に包まれました。


10回目のDiscovery、世界をつなぐプラットフォームへ

代表取締役社長 CEOの玉川 憲は、ソラコムの10年を振り返り、IoTプラットフォームSORACOMは、現在では世界213の国と地域、509の通信事業者をカバーし、3万を超えるお客様にご利用いただくサービスになったことを紹介しました。グローバルでの売上比率は40%を超え、この日、IoT契約回線数(*1) も800万回線を突破したことを発表しました。
(*1) 海外法人からの提供を含む SORACOM Air の総回線数。SORACOM Air for セルラー、Sigfox、LoRaWANを含む。

SORACOMは、通信やクラウドといったテクノロジーを通じ、お客様のビジネス成長を支えるプラットフォームであり続けることを使命としています。その姿勢は高く評価され、英国の調査会社Kaleido Intelligence社からは、「Connectivity Management Platform (CMP)」分野において、3年連続でChampionに選出され、調査対象39社中2位の評価を獲得しました。

IoTでつながるデバイスから日々生成される膨大なデータは、まさに「現実世界」の宝庫です。ソラコムでは、この宝の山を、「生成AI」の力で最大限に活用する取り組みを進めています。

お客さまの現場でも、IoTとAIの融合による具体的な成果が生まれています。例えば、大塚倉庫株式会社様では、カメラ映像をAIで分析し、倉庫内の不審者検知を効率化しています。また、生活協同組合コープさっぽろ様では、売場の在庫状況をAIで可視化し、業務効率の向上に役立てています。生成AIの登場は、従来の機械学習のような膨大な学習コストをかけることなく、現場で「すぐに使える」実装を可能にしました。

この革新的なアプローチは、外部からも高い評価を得ています。Frost & Sullivan社は、「通信プラットフォームに生成AIを組み込むことで、競合がまだ踏み込んでいない領域のイノベーションを実現している」と評価しました。

新たな企業理念とプラットフォーム戦略リアルワールドAIプラットフォーム

生成AI時代を迎え、ソラコムは新たな企業理念「Making Things Happen」を発表しました。これは、単にモノをつなぐだけでなく、主体的に世界を動かし、より良い社会を築いていくという強い意思を込めたものです。

また、IoTプラットフォームの目指す新たな戦略として発表されたのが「リアルワールドAIプラットフォーム」です。このプラットフォームは、現実世界から得られる膨大なデータをAIにつなぎ、活用するためのインフラとして進化を続けます。これにより、IoTは新たなステージへと進み、これまで想像もできなかったような価値創造が可能になります。

このための新たな発表として「MCPサーバー」の提供と、「OpenAI APIプラットフォーム」のエンタープライズ契約を締結を発表しました。

ゲストスピーカー登壇:OpenAI Japan 合同会社 代表執行役社長 長﨑 忠雄氏

ここで、OpenAI Japan 合同会社 代表執行役社長の長﨑 忠雄氏が、ステージに登壇されました。長﨑氏は、OpenAIの設立背景と「ChatGPT」をはじめとしたサービスの急速な普及と進化、企業における活用がどのように進んでいるかについて紹介しました。

後半は、ソラコム玉川からの質問を受ける形で、日本企業のAI活用の課題と未来について語り合いました 。長﨑氏は、「ロボティクスやIoTなど、ハードウェアと生成AIの融合はすでに始まっている。デバイスと生成AIは相性がよく、産業構造の変化や会社のあり方を変える力があると考えている」と語りました 。また、「OpenAIのAPI(*2)を利用して、世の中にまだない革新的なサービスが毎日生まれている」と述べ 、ソラコムにも革新的なサービスを作ってもらいたいと期待を寄せました 。これは、APIを活用する企業すべてが持つ創造性と可能性を示唆し、参加者へのエールともなりました。

(*2) Application Programming Interface: あるソフトウェアの機能やデータを、別のソフトウェアから利用するための機能

新発表:業務支援のためのAIボットサービス「Wisora」
─生成AIボットを誰でも使える時代へ

新サービス「Wisora(ウィソラ)」は、Webページやファイルを読み込ませるだけで、自社の知見を反映したAIボットを簡単に作成できるサービスです。すでに、Nature株式会社で導入され、社内FAQの自動化やサポート業務の効率化に貢献していることが示されました。

ゲスト登壇:アイリスオーヤマ株式会社 IoT開発部 部長 尾形 大輔氏

次に、2人目のゲストとして、アイリスオーヤマ IoT開発部 部長 尾形 大輔氏に登壇いただきました。アイリスオーヤマ様は、家電などのB2C商材から、B2B領域まで幅広く事業を展開されています。今回紹介いただいたのは、照明を起点とした無線制御システム「LiCONEX(ライコネックス)」です。

尾形氏は、LED化で約1/3の節電になり、LiCONEXの自動制御により、さらに2.3割の節電が可能になると紹介しました。

現在、LiCONEXの技術は、他のデータを中継する高密度のセンシングゲートウェイとしても活用が進んでいます。オフィスでの位置情報管理、小売でのカゴの移動管理、工場の熱中症指数の表示など、活用用途は様々です。特に冷蔵ケース温度測定自動化(食品衛生法対応)は、全国2,500店舗・約6万センサーが導入され、手書き記録の自動化やアラート通知により業務効率化に貢献しています。

尾形氏は、多店舗展開するリテール企業などの遠隔管理やコンサルティングにおいて、SORACOMIoT SIMとユーザーコンソールが活躍していると述べました。

新発表:大容量アップロード向けプランへの対応
─世界中の現実社会をデータにしてつなぐ

続いて、CEO of Japan 齋藤 洋徳より、AIカメラやロボティクスといった、大容量のデータ通信を必要とするニーズに応える、1TB(テラバイト)以上の大容量通信に対応した法人向けSIMプランを発表しました。

さらに、組み込み製品向けのeSIM(組み込み型SIM)やiSIM(集積型SIM)については、製造・在庫期間中の通信コストを抑えられる「テストモード」機能を強化し、IoT製品の量産から商用化をサポートします。

続いて、ソラコム最高技術責任者 CTOの安川健太が登壇し、「リアルワールドAIプラットフォーム」は、創業時から描いていた形であり、AIの登場によってこの目標がいよいよ実現可能になったことを強調しました。

昨年ローンチしたIoTシステムのオートメーションを実現するサービス「SORACOM Flux」は、最新の生成AIモデルに継続的に対応し、動画解析にも対応することで、より高度なユースケースが実現可能となりました。

ゲスト登壇:スズキ株式会社 次世代モビリティサービス本部 本部長 藤谷 旬生氏

三人目のゲストスピーカーとしてスズキ株式会社 次世代モビリティサービス本部 本部長の藤谷 旬生氏が登壇されました。スズキ様は、社会インフラとしてのモビリティ提供を通じて人々の暮らしを支える「インフラモビリティ」への進化を掲げています。藤谷氏は、異業種との共創により推進している新規事業について語りました。

電動台車「電動モビリティユニット」は、様々な用途の足回りとなる移動型ロボタイゼーションを提供する新しい取り組みです。このプロジェクトでは、ソラコムと協業して数十台の試作機をIoT化し、現場へのデリバリーやメンテナンスにデータを活かしています。

また、コネクテッドカーから得られる膨大なデータ活用についても、ソラコムと松尾研究所の共同プロジェクトである「IoT ✖️ GenAI Lab」との取り組みを進めています。藤谷氏は、「宝の山から宝をマイニングできていないのが現状。ここはAIの仕事だ」と述べ、生成AIを活用した知見抽出も推進していく考えを示しました。

新発表:データ分析基盤サービス「SORACOM Query」
─データと意思決定をつなぐ

続いて、新サービス「SORACOM Query」の正式リリースを発表しました。生成AIとの統合により、自然言語(普段私たちが使う言葉)でセンサーデータやSIMの使用状況を検索し、その結果の可視化・分析が可能になりました。

新発表:「SORACOM Connectivity Hypervisor」
─IoT SIMで複数プロファイルの切り替えが可能に

SORACOM Connectivity Hypervisor」は、1枚のSORACOMのSIMで、ソラコムが提供するプロファイル(通信設定)に限らず、他の通信事業者が提供するプロファイルを含めて、リモートからプロファイルの追加・切り替えを可能にするものです。本技術に対応したSIMは、2025年度中の商用化を予定しています。

この技術は、AECC(Automotive Edge Computing Consortium)(*3) プロジェクトの次世代ネットワークの実証においても、本技術をベースにしたサービス構想が検証されています。

(*3) AECCは、自動車産業と通信業界が連携し、コネクテッドカーのデータ活用を推進するための技術開発を行う国際的な団体です。

新発表:「SORACOM Flux アプリ テンプレート機能」
─IoTシステムの自動化やAI活用を身近に

締めくくりとして、CEO of Japanの齋藤が登壇し、今ここからすぐに始められる具体的な機能として、SORACOM Flux上で使えるAIアプリケーションをわずか数クリックで展開できる「SORACOM Flux アプリ テンプレート機能」や、OpenAIのAPI利用にかかるクレジット価格の大幅値下げを発表しました。

次の10年へ。この交差点からはじめよう
─先進技術を、誰もが活用できるように

デバイス関連のアップデートとして、GPSと温湿度センサーを一体化した新デバイス「GPS + Beacon Edge Unit」や、「ソラカメ屋外スターターキット」の発売も紹介されました。

さらに、これからIoTを始める方向けに「SORACOMはじめてサポート」や、生成AIを活用した開発支援サービス「SORACOM GenieBuild」も発表されました。テクノロジーを必要とする方々がIoTやAIの導入・開発を進められるよう、サポート体制を強化していきます。

齋藤は、すべてのパートナーとお客様への深い感謝を述べ、「次の10年へ。この交差点から始めていきましょう」という言葉で基調講演を締めくくりました。

SORACOM Discovery 2025は、午前中の基調講演が終わった後も、会場は熱気に包まれ、午後のセッションでは30を超える専門的なテーマが議論され、30を超えるパートナー企業による展示ブースでは、具体的なソリューションが紹介され、活発な交流が夕方まで続きました。

ソラコムは、新戦略「リアルワールドAIプラットフォーム」を掲げ、お客さまの課題に寄り添えるよう、引き続き邁進してまいります。

ソラコム 広報 田渕