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IoT共創で現場課題を解決:JENESISとugo、クラボウの挑戦

IoTが生活に浸透する中、用途にあわせたコネクテッドデバイスを自社で設計・製造するケースも増えてきています。「クラウド全盛時代におけるIoTエッジ活用」をテーマに、JENESIS株式会社がデバイスの設計・製造に関わった事例として、ugo株式会社倉敷紡績株式会社の2社のハードウェアを含むソリューションと、ソラコムと共同開発したデバイスを例に、新サービスにおけるデバイス、通信、クラウドの組み合わせ方について紹介します。

本記事は2025年7月16日開催のSORACOM Discovery 2025セッション「クラウド全盛時代におけるIoTエッジ活用とグローバルサプライチェーン戦略」のレポートです。

JENESISの製造戦略とeSIM実装実績

最初に登壇したJENESIS株式会社の藤岡氏は、同社がIoTデバイスの開発から量産、物流、さらには保守サポートまでを一貫して提供する「IoT ODM」であると紹介しました。ODMとは、委託者のブランドで製品を設計・製造するビジネスモデルで、ODMのサポートがあれば委託者は設計や製造に関する専門知識や設備がなくても、自社ブランドの製品を開発・販売できます。JENESISは、企画・設計から試作、量産、物流、さらにはエッジのサポートまで、ワンストップで対応できる点が最大の強みであると語ります。

2011年の創業以来、JENESISは600製品以上の開発を手掛けており、現在ではソラコムとの連携も深化しています。中でも、ソラコムから「eSIM実装実績No.1パートナー」として評価を受けていることを挙げ、ハードウェアと通信を結ぶ橋渡し役としての役割を強調しました。2024年にはソラコムからの出資も受け、資本提携による関係強化が進められています。

製造拠点としての中国・深センは今なお高い開発スピードと部品調達力を維持しており、IoT製品において不可欠な地域であると述べました。一方で、セキュリティや地政学的リスクを考慮した「チャイナプラスワン」の視点から、設計データを顧客資産として提供し、組み立て地としては日本やベトナムへのシフトも可能にしたと説明しました。

現場課題に応える「動くIoT」:ugoのロボット活用

続いて登壇したugo株式会社の松井氏は、警備や点検などの人手不足が深刻化する現場において、自社が開発するロボットがどのように課題解決に寄与しているかを紹介しました。

たとえば、点検ロボットは4Kカメラや各種センサーを備え、180cmまで伸びるテレスコピック構造により、設備の異常を遠隔から検知・記録できる仕組みを備えています。人間の「見る」「触る」「匂いを嗅ぐ」といった五感による点検作業を、ロボットとセンサー、そしてAIによって代替しデジタル化、自動化することが可能だと語りました。

さらに、警備ロボットの活用も進んでいることを紹介しました。夜間は人と同じようにエレベーターを操作してフロアを巡回し、不審者の検出や案内業務までを担っていると説明しました。これらのロボットは、すでに全国で導入が進んでおり、大阪万博の会場でも運用されているといいます。

松井氏は、「ロボットはまさに“動くIoT”でありニーズも増えています。常時データを収集・通信する存在です。通信の安定性は極めて重要で、SORACOMの大容量回線を採用することで、リアルタイム映像やセンサーデータを確実にクラウドへ送信できています」と、SORACOMとの連携の価値を語りました。

繊維企業が挑むIoTサービス:倉敷紡績のスマートフィット

倉敷紡績(クラボウ)の藤尾氏は、同社が開発・提供する暑熱リスク管理サービス「Smart Fit for work (スマートフィット)」について紹介しました。このサービスは、1888年創業の繊維メーカーであるクラボウが、少子高齢化や気候変動といった社会課題を踏まえ、企業の「健康経営」へのニーズの高まりに応えるべく、IoTを活用した新規事業として、2018年度に開始されました。

藤尾氏は、「私たち繊維会社だけではIoTサービスの実現にはパートナーの力が不可欠です。共に作る“共創”という考え方のもと、多様なパートナーと連携しながら、現場課題に本質的に向き合うソリューションを開発しています」と語り、共創型のビジネスモデルへの重要性を強調しました。

スマートフィットでは、作業者が装着したウォッチ型のデバイスから得られた生体データをクラウドに送信し、独自のアルゴリズムでリアルタイムに検知・アラート通知します。JENESISが製造したウォッチ型デバイスは、小型で通信(SIM)搭載、腕時計のように装着するだけで始められるため、利便性も高く、様々な現場に受け入れられています。加えて、暑熱リスクを検知するアルゴリズムの精度の高さも評価され、建設業や製造業で活用が広がっています。

大阪大学との共同研究により、現場のデータからの知見をアルゴリズムに反映し、常に最新の精度の高いアルゴリズムを提供しています。また、新たな取り組みとして、データの活用も始まっています。常時入ってくる述べ200万人以上のデータを解析し、予防を含めた現場の改善といった安全衛生活動につなげる取り組みを新たなソリューションとして展開を始めています。藤尾氏は、今後は熱中症の管理だけではなく、安心・安全などの職場をサポートするソリューションとして拡充する方針を語りました。

新規IoTプロジェクトの課題を解決する汎用デバイス「GPS + Beacon Edge Unit SORACOM Edition」

続いて、ソラコムの堀尾から、JENESIS株式会社との共同開発によって生まれた新製品「GPS + Beacon Edge Unit SORACOM Edition」を発表しました。これまでの両社の連携は、特定のユースケースに特化したデバイス開発が中心でしたが、今回は「幅広いIoTの要件に応える汎用デバイス」という新たな挑戦です。

新規IoTプロジェクトが直面する課題として、ニーズの不確実性や初期投資の大きさ、デバイス仕様の変更困難さがあるため、手頃な価格で必要な個数を入手でき、初期導入に最適なミニマム構成の「初期段階で手軽に試せる“ちょうどいい”デバイス」の必要性を語りました。

「GPS + Beacon Edge Unit SORACOM Edition」は、GNSSによる屋外位置情報、BLE Beaconによる屋内位置推定、加速度、温度、湿度といった複数のセンサー機能を搭載し、内蔵バッテリー、USB、DC給電といった複数の電源方式にも対応しています。さらに、SORACOMのクラウドサービスと連携することで、開発不要で可視化や外部システム連携ができます。

この発表をうけ、藤岡氏は、「多くの企業やスタートアップがPoC(概念実証)をやりたくても、スクラッチ開発には高コストが伴うため、多くの企業にとっては障壁となっていました今回の新商品は、過去のSORACOMとの豊富な連携を活かし、まずはPoC、その後のカスタマイズ量産へとつなげられるモデルです」と述べ、企画からわずか4ヶ月で製品化に至った背景には、深センのスピードと自社のノウハウがあることを紹介しました。

まとめ

本セッションでは、IoT現場の進化と、それを支える製造・通信・パートナー連携の重要性が語られました。これまでは、IoTデバイスを活用する場合は、既存の製品から選択することが一般的でした。しかし、SORACOMのような管理機能まで網羅したIoTプラットフォームと、JENESISのようなODMパートナーとの協業で、既存製品では対応が難しいニーズに対し、自社開発も選択肢として拡がってきています今後もソラコムはパートナーとともに、より多くの現場にIoTの力を届けていきます。

ソラコム 広報 田渕