ソラコムは2026年7月7日、年次カンファレンス「SORACOM Discovery 2026」を開催しました。今年のテーマは「AIの進化とともにIoTは次のステージへ」。会場には30を超えるスポンサーの展示と実機デモが並び、15以上のセッションを実施。来場者のみなさまが、最新の技術動向や活用事例を「聞く・見る・触れる」実践の場となりました。
本記事では、CEO の玉川、CTO の安川、CEO of Japan の齋藤が登壇した基調講演を中心にレポート形式でお届けします。
基調講演:玉川CEOのメッセージ、競争力は「トークン資本」に宿る

代表取締役社長 CEO の玉川 憲は、ソラコムがIoT通信を軸としたプラットフォームから「AIとIoTを融合したプラットフォーム」へと進化していることを紹介しました。SORACOMのプラットフォームは、世界で900万を超えるデバイス、4万社を超えるお客様にご利用いただいており、ガートナーの2026年マジック・クアドラントでもリーダーの一社に選出されるなど、グローバルでの評価も広がっています。玉川はこうした実績に触れたうえで、講演の冒頭に「生成AI時代に、企業はどこで競争力を生むのか」という問いを据えました。
玉川は、生成AIは人類史における「知の創造」であると位置づけました。活版印刷が「知の複製」を、インターネットが「知の共有」をもたらしたのに対し、生成AIは人の領域だった「創造」に初めて踏み込んだと説明しました。さらに「AIコードエージェントの登場によって、人がコードを書く時代が“急に”終わりを迎えた」と述べ、高性能な基盤モデルを誰もが等しく“借りられる”時代には、モデルそのものが差別化要因にはならないと指摘しました。
では、どこに競争力が生まれるのか。玉川が挙げた答えが「トークン資本(Token Capital)」です。これは、人とAIがやり取りを重ねる(学習の循環=ラーニングループを回す)ほど、自社ならではのAIの知見やノウハウが資産として積み上がっていく、という考え方です。基盤モデルは誰もが同じものを使えても、そこに自社の業務やデータを重ねて育てたトークン資本は、他社には真似できない差別化になります。
ここで玉川が強調したのが、「人の価値はむしろ高まる」という点です。マイクロソフトのサティア・ナデラ氏の「人的資本は、トークン資本が育つほど価値が上がる」という言葉を引き、これからの人材は、AIに仕事を教え、任せ、その結果を監督・判断し、例外に対応する“AIのリーダー”になっていくと説明しました。AIが担う領域が広がるほど、それを使いこなす人の重要性も増していく、というわけです。
ソラコム自身も、この考え方を実践しています。組織を「少人数×AI」のチームへと再編し、「Embrace Change(変化を、抱きしめよう)」を合言葉に、この1年で大きく変わりました。社員のAI利用率は100%、プロダクトのコードはほぼ全量をAIで生成し、売上に対する販管費の比率は6ポイント低下。それでも人員は減らさず、生み出された余力をより価値の高い仕事へ振り向けています。
そのうえで玉川は、ソラコムが果たす役割を「安全な器(リアルワールドAIプラットフォーム)」と表現しました。現場のセンサーやカメラから集まるフィジカルなデータも、社内外に散らばるデジタルなデータも、安全にAIへつなぐ土台になる、という意味です。

プラットフォームの進化 ーフィジカルAIの時代に欠かせない「安心・安全な通信」
最高技術責任者 CTO の安川 健太からは、フィジカルAIの時代に欠かせない「安心・安全な通信」をテーマに、ネットワークセキュリティを高める新機能「VPGトラフィックフィルタリング」やSIMの耐タンパ性などの機能を紹介しました。加えて、SIMの新技術SGP.32を活用しSORACOMのプラットフォーム上で通信キャリアを切り替える機能「Connectivity Hypervisor」、SORACOMで培った技術をコネクテッドカー業界向けに展開する初のパッケージ「Automotive Suite」などの新サービスを発表しました。
IoT実践を始めるために ー今日からIoTデータ活用を始めるためのデバイス・サポート
CEO of Japan の齋藤 洋徳は、まず「IoTデータ活用の実践を始めること」の重要性について説明しました。ソラコムでは、これからIoTを始める方に向けたデバイスも提供しています。センチメートル級の測位を可能にする「RTKサービス」や、屋外設置にも対応する通信機能搭載のクラウド型カメラ「ソラカメPro」といった、現場のデータを手軽に取得するための新デバイスを紹介しました。あわせて、IoTシステムの構築・運用を効率化するサービス群に加え、専門コンサルタントがプロジェクトに伴走する「プロフェッショナルサポート」や、認定パートナーによる支援など、実践を後押しする体制も紹介されました。

特別ゲスト:現場・製品を進化させる3社の実践
本田技研工業株式会社 ― モビリティロボット「UNI-ONE」
本田技研工業株式会社 UNI-ONE事業責任者の中原 大輔氏に、モビリティロボット「UNI-ONE」に搭乗してご登壇いただきました。UNI-ONEは、座ったまま体重移動するだけで全方位(360度)へ動くことができ、年齢や障害の有無を問わず利用できる「インクルーシブなモビリティ」です。大分県のハーモニーランドでは、ARグラスを装着してキャラクターと空を旅するアトラクションを提供。物理的な移動とデジタル体験を融合させたXRモビリティを実現しています。
中原氏は「わずかな遅延や断絶が没入感を壊してしまう。ソラコムの安定した通信基盤を獲得したからこそ、新しい体験が作れた」と述べました。位置情報に連動したAI音声対話ガイドや、画像認識AIによる危険エリアの自動回避などの機能もご紹介いただき、「移動を、体験に変える」を掲げ、ホンダのモビリティ技術とSORACOMの通信を掛け合わせ、「フィジカルAI」による社会変革を目指すと締めくくられました。

アズビル株式会社 ― ビル空調のエンジニアリング作業をリモート化
アズビル株式会社 執行役員の安田 一彦氏は、同社のビルディングオートメーション事業のIoT化を紹介されました。これまで、空調機器の設定や動作確認といった「エンジニアリング作業」は、必ず現場で行う必要がありました。安田氏は、SORACOMの通信を活用し、LTEルーターを後付けで空調管理機器に取り付けることで、既存システムを刷新することなく「現場作業の一部リモート化」を実現したと説明しました。
作業者の移動時間の削減にとどまらず、複数現場の同時対応、安全な室内からの作業、作業内容の可視化や技術伝承、働き方に制約のある社員によるリモート支援、拠点間の負荷平準化を可能にしています。現在は全国約30の現場で実運用され、現場からは「一度使ったら手放せない」との声が寄せられているそうです。
安田氏は「人を置き換えるためではなく、人が安心して、より価値の高い仕事に集中できるDXでありたい」と語り、ビル設備業界全体の働き方改革への貢献を掲げられました。

東京ヴェルディ株式会社 ― スポーツ×テクノロジー
東京ヴェルディ株式会社 代表取締役社長の中村 考昭氏は、サッカーにとどまらず17競技を展開する総合型スポーツクラブとしての進化の方向性を語りました。ホームゲーム開催時は、物販のショップにソラコムクラウドカメラサービス「ソラカメ」を導入し、来場者の動線分析や混雑リスクの管理を行っています。
中村氏は、試合のない日もファンとつながり続けるための施策として、eSIMを活用したモバイル通信サービスの構想を紹介しました。通信を軸に、オンラインでファンとつながるためのコンテンツを提供するというアイデアです。
極めてフィジカルな領域であるスポーツにこそIoTやAIを組み込む余地が大きいとし、ソラコムとともに日本のスポーツビジネス産業の成長を目指したいと、力強く語られました。

展示・セッション
30社を超えるパートナー企業が集結した展示コーナーでは、それぞれの強みを活かしたデバイスやソリューションが並び、その場で情報収集や相談をする多くの来場者が集まりました。ソラコムのブースでも、Discoveryで新たに発表されたサービスやデバイスを展示。ソラコム社員やユーザーグループがアイデアを形にする「IoTプロトタイピングコーナー」には、IoTシステム活用のヒントを探す方々にもお集まりいただきました。
午後のブレイクアウトセッションでは、新発表やSORACOMのアップデートを技術視点で語るCTOキーノートやIoT・AI・DX活用事例の実践者をゲストにお迎えしてご紹介しました
キーノートに関連する新発表
数多くの新発表がキーノートで紹介されました。詳細はプレスリリースをご覧ください。
- 衛星通信とセルラー通信を統合管理、衛星IoTシステムをスムーズに構築可能に
- 業務現場のIoT活用をAIエージェントが支援するサービス 「SORACOM Agent」を提供開始
- ソラコムクラウドカメラサービス「ソラカメ」、屋外現場向け通信一体型の新モデル「ソラカメ Pro」を発表
- IoTシステムのネットワークセキュリティを強化する「VPGトラフィックフィルタリング」機能の提供開始
- コネクテッドカーの車載通信からサービス運用までを支える 「SORACOM Automotive Suite」を提供開始
- クラウドネイティブなモバイルコア技術を 通信事業者へ提供する新たな事業展開を発表
- IoTデバイスの標準通話機能(VoLTE)を活用した 音声接続サービス「SORACOM Air RTC Gateway」を提供開始
- プロファイル管理基盤「SORACOM Connectivity Hypervisor」の商用提供を開始
おわりに
基調講演で示した戦略は、展示・セッション・コミュニティを通じて会場全体の“実践”として体現され、ソラコムがヒト・モノ・AIをつなぐプラットフォームへと着実に領域を広げていることを実感いただける一日となりました。ソラコムは、これからもお客様・パートナーのみなさまとともに、新しい価値を創造し続けてまいります。

