こんにちは、ソラコムのテクノロジー・エバンジェリスト 松下です。
IoTプラットフォーム「SORACOM」は、スマートフォンで使われるLTEや5Gといったセルラー通信を、IoT向け通信として使いやすくなるように提供しています。そのセルラー通信の「どこでもつながる」「入手しやすい」という点から、ISDNや専用線といった企業ネットワークの代替手段にも選ばれることが増えており、解説することが多くなりました。
そこでこのブログでは、2024年にサービス終了がアナウンスされているISDN回線について、スケジュールや代替案、情報システム部門や総務の方が知っておきたい基礎知識をご紹介します。
セミナー動画のアーカイブをオンライン・無料(要登録)で公開しています。
本記事で紹介している内容に加えて、複数のSIMが搭載可能なゲートウェイデバイスの具体的な活用もご紹介してます。
アーカイブ動画については、こちらのブログ記事をご覧ください。
https://blog.soracom.com/ja-jp/2022/11/29/isdn_replace_seminar_amnimo/
ISDNをセルラー回線に置き換える利点や、構築に使えるサービス、そして費用感をご紹介する「技術編」を公開しました。併せてご覧ください。
https://blog.soracom.com/ja-jp/2022/11/28/isdn-migration-for-2024-tech-kb/
「ISDN」 と 「INS ネット」の違い
調査を開始すると「ISDN」だけでなく、「INSネット」という単語も見つかります。実はこれらは同じものを指しています。
ISDNは通信回線の技術名で、INSネットは、NTT東日本およびNTT西日本によるISDN回線を用いた通信サービス名(商標)です。ここではISDNの名称で統一してご紹介します。
ISDNサービス終了の全貌とスケジュール
2024年1月には、ISDNを含む固定電話が IP 網化されます。そしてISDNのサービス終了というのは、IP網化に伴う改廃です。
サービス終了の対象は「ディジタル通信モード」
ISDNには、用途に応じてモードが複数あります。そのうち、ISDNの利用者がよく使うのが「通話モード」と「ディジタル通信モード」です。
通話モードは、電話等で音声伝送をする通信です。ディジタル通信モードは、モデム等でデジタル信号を伝送する通信になります。モードの選択はネットワーク側で自動的に行われるため、利用者は気にすることはありませんでした。一方で、IP 網化に向けてはこの “モード” を意識する必要があります。それぞれのモードで、サービス提供の状況が異なるからです。
通話モードは、IP 網上で引き続き利用が可能です。ディジタル通信モードも、実は2024年1月以降も「切り替え後のINSネット上のデータ通信 (補完策) (以下、補完策)」に引き継がれて利用が可能です。
しかし、この補完策も2027年頃には終了とアナウンスされています。あくまでも “目処” ではありますが、2027年が最終時期であることは間違いないでしょう。
「補完策」で変わらないこと、変わること
補完策とは、IP 網上でディジタル通信モードを提供することであり、同モード用の機器や設定がそのまま使えるとされています。料金も据え置きです。要するに見た目は何も変わりません。
一方で、通信速度や遅延については「同一の品質とならない」となっています。検証結果ではおおむね問題は無いのですが、例えばテレビ電話による音声遅延の発生が見受けられます。
すなわち、IP網化によって「ベストエフォート (最善の努力)」へと品質が変わることを理解しておく必要があります。
使用中のISDN回線の把握方法と、モードの見分け方
使用中のISDN回線、そしてモードを把握するのに確実なのは「請求書」です。
まず回線数については電話番号の数で確認できます。これはISDNには必ず電話番号が付与されるためです。ISDN回線を管理している部署と連携して回線を特定しましょう。
続いてはモードの見分け方です。請求書の “料金内訳名” で判別できます。
- INS通話料 → 通話モードでの使用実績
- INS通信料 → ディジタル通信モードでの使用実績
「INS通話料」のみに費用が発生しているのならば通話モードでの通信であるため、2024年1月以降も提供されますから慌てることはないでしょう。「INS通信料」の費用が発生しているのであれば、機器を特定したうえで対策が必要です。
どの機器がどのモードで動いているかは、残念ながら請求書からは読み取れません。しかし現状把握と取り掛かりのきっかけにはなりますので、ぜひ活用してください。
ディジタル通信モードを利用する機器の例
以下の使い方をしている機器を中心に確認しましょう。
- 拠点間ネットワーク
- POS、IPネットワーク(TAやDSU経由の接続)
- 組織間データ交換
- EDI、EB(ファームバンキング)、CAT/CCT(クレジットカード決済)、G4規格FAX
代替となる通信回線
ISDNの代替となる通信回線は以下の通りです。
- 光回線 + インターネット接続
- セルラー回線 (インターネット接続含む)
ISDNは相手先の電話番号に対して直接電話をして接続する事ができます。すなわち、インターネット接続(ISP)を通さずにネットワークが作れます。しかし現在の一般的な代替手段では、このような構成をとることができません。
代替手段としては、インターネット(公衆網)を利用して相手先に接続する形式がスタンダードとなります。そのため、ISDN回線の置き換えに加えてISPとの契約も必要です(下図の黄色の部分)。
セルラー回線はそれ自体にインターネット接続が含まれているため、特に意識する必要はありません。光回線への置き換えの際には、今までに無かった費目が増えることを理解しておきましょう。
セキュリティを確保するための「閉域ネットワーク」
インターネットを介して拠点間接続を行う際には、セキュリティの配慮が不可欠です。
ISDNによる直接接続では、外部からの侵入経路は電話番号になります。そこで番号を秘匿したり、着信可能な電話番号の制限やコールバック(着信時の電話番号へ電話をかけ返す)といった仕組みで運用していたかと思います。
インターネットを利用する際も同様に、接続時に利用するアドレス(エンドポイント)が侵入経路です。また、このエンドポイントはネット上に常時露出している状態となることから、ISDN以上にエンドポイントの保護が重要課題となります。
エンドポイントを保護する方法「VPN」
VPNとはVirtual Private Network、インターネット上で閉域ネットワークを作る手法です。この「閉じたネットワーク」を作ることで、エンドポイントを保護します。
具体的には、インターネット上でISDNの時のように直接接続をする「拠点間 VPN」や、インターネット上にVPN接続を集約するサーバーを用意して、各拠点からの接続を受け付ける「集約型 VPN」があります。
共通しているのは、セキュリティを確保するための「閉域ネットワーク」作りが不可欠であり、そのための費用も別途発生するということです。
VPNの接続点自体もエンドポイントですが、ここで挙げた懸念点が考慮されている製品やサービスになっているため、サーバーを直接露出するよりも安心した運用ができるようになっているとお考え下さい。
基礎編のまとめ
最後は少し技術寄りにはなりましたが、情報システム部門の方だけでなく総務の方にも知っておいていただきたい知識として、ISDNのサービス終了に関する情報を紹介しました。
- 2024年1月にサービスが終了するのは「ISDNのディジタル通信モード」。通話モードは2024年以降も利用できる。
- ディジタル通信モードも「補完策」による継続利用が可能。設定や機器更新も不要だが、回線品質は変わる上、2027年頃には補完策も完全終了の見込み。
- 使用中の回線把握は、請求書の活用が確実。特に「料金内訳名」に注目。
- 代替案は光回線もしくはセルラー回線。光回線の場合は別途インターネット接続契約が必要となる。
- セキュリティを確保するためには、回線の他に「閉域ネットワーク」の構築も不可欠。
今書いている「技術編」では、特に情報システムの方に向けて、ISDNをセルラー回線に置き換える利点や構築に使えるサービスと費用をご紹介します。ご期待ください!
― ソラコム松下 (Max)