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ビジネスを「変える」、AIとIoTにどう取り組むべきか?

2024年7月17日開催のSORACOM Discovery2024の中でも特に参加者が多かったセッションのひとつ、【特別講演】「徹底対談!ビジネスを「変える」、AIとIoTにどう取り組むべきか?」のレポートをお届けします。早稲田大学の入山教授、フジテックのデジタル変革を率いCIOの役割定着と情報化社会の発展に尽力する友岡氏、AIの社会実装に取り組む松尾研究所で経営戦略を担う金氏、ソラコム CEO of Japanの齋藤が、AIとIoTへ取り組むべき理由や踏み出し方について議論しました。

【特別講演】徹底対談!ビジネスを「変える」、AIとIoTにどう取り組むべきか?

<モデレーター>

入山 章栄氏 早稲田大学大学院/早稲田大学ビジネススクール 教授 / 株式会社ソラコム 社外取締役

<スピーカー>

金 剛洙氏 株式会社松尾研究所 取締役 経営戦略本部ディレクター 

友岡 賢二氏 フジテック株式会社 専務執行役員 デジタルイノベーション本部長 

齋藤 洋徳 株式会社ソラコム 上級執行役員 CEO of Japan 

テクノロジー活用は、「まずやってみる」から始まる

モデレーターを務めた​​早稲田大学大学院/早稲田大学ビジネススクールの入山教授は、当日の立ち見がでる程のセッションの盛況ぶりに、「IoTの時代が来たことを実感しています。私はIoTの勝ち筋は圧倒的に日本にあると考えています。日本の現場、ものづくり、サービス業でもオペレーションの強さがデジタル化されることで競争力になる時代が来ています。モノやリアルの現場がネットにつながる時代になれば、日本にとっては、世界に勝てる大きなチャンスとなります。今日はこのあたりをゲストのみなさんと深めていきたいと思います」とセッションをスタートしました。

フジテック 専務執行役員 デジタルイノベーション本部長の友岡氏は、「今日は、日本の製造業代表として、どう取り組んでいるかお話したい」と述べた上で、フジテックのIoTをはじめとしたテクノロジー活用について紹介しました。

フジテックは、創業76年目を迎えるエレベーター、エスカレーターなどの昇降機のメーカーです。昇降機は、都市の移動を支える乗り物であり、安全・安心が求められます。M2M(Machine to Machine)の時代からエレベーターはつながっていてデータを活用しているが、IoT(Internet of Things)の時代になって活用の可能性が広がったと友岡氏は語ります。日本で行っていたエレベーターの遠隔監視は、クラウドの普及とSORACOMの登場により、小規模でも対応可能に、そしてグローバルに展開できるようになりました。

「グローバルのエレベーター監視システムの導入には、設置の国毎に各国のキャリアと契約する必要があります。でもSORACOMなら、1社の契約で一気通貫で世界の国々でつながり、回線の一元管理もできます。世界中の通信状況が日本にいながら把握できるので、管理面でも楽になります」(フジテック 友岡氏)

エレベーターのグローバル遠隔監視のほか、カメラを使ったフィールドエンジニアの遠隔サポートや、Microsoft HoloLensを活用した業務支援のPoC(Proof of Concept、実証実験)、地震などの災害時にエレベーターの停止状況をGoogle Mapを使って表示、優先度をつける取り組みなど様々なテクノロジー活用をしているフジテック。その秘訣は、稟議を書いてはじめから大きく始めるのではなく、小さくPoCを「まずやってみること」にあると言います。まず動くものを作って結果を出すことで、その便利さに周囲が気づき、取り組みが前進するということです。

生成AIの浸透でPoCが高速化

次に、松尾研究所 取締役 経営戦略本部ディレクターの金氏が、ここ数年の急速なAIの進化の影響について、スライドを提示しながら紹介しました。

従来のAIでは、過去データからの事前学習が必要で、そのためにはデータを蓄積して学習させる必要がありました。しかし、生成AIは大量のデータから事前学習済みのモデルのため、例えば犬と猫を見分けるようなケースも学習なしですぐに対応できます。

上図の左がインプット、右がアウトプットとしたときに、人の業務やプログラムもインプットをアウトプットに変換する機能といえます。AIはプログラムなので、人が疲れてしまうような大量の作業や、安定した品質を求められる作業は、人より向いていると言えます。

基本的には、良い指示文を与えれば回答をくれるという点は人と同じであり、業務を見極めて任せていくことが重要だと金氏は説明しました。

金氏が強調したのが「AIの社会実装( PoC)の変化」です。生成AIの活用で、事前のデータ収集や学習を省略し、高速に試せるようになり、PoCの時間軸が急速に変わってきているという指摘です。

具体的には、これまでは半年〜1年かかっていたようなプロジェクトでも、生成AIを利用すれば1-2ヶ月で成果がでることもあり、プロジェクトの進行スピードは5-6倍早まっていると金氏は述べました。

ソラコムと松尾研究所の共同プロジェクト「IoT × GenAI Lab」は、2024年6月に三菱電機の空調制御のPoCの結果を発表しました。その中で、汎用的な生成AIで、チューニングや追加の学習なしで、期間平均48%の電気使用量の削減と平均26.36%の快適性改善効果を実現しています。

三菱電機とソラコム・松尾研究所「IoT × GenAI Lab」が、 IoTと生成AIを応用した空調機器制御の実証実験を実施

ソラコム の齋藤は、昨今の生成AIエンジンは、テキスト、画像、動画、音声などの複数のデータ形式を扱えるマルチモーダル化がすすみ、インプットとなるデータの選定も手間が不要になりつつあることを示し、以前はPoCと言えば3ヶ月からというのが常識だったが、最近はもっと短期間の実証実験もあると金氏の指摘に賛同しました。

友岡氏からは「これまでIoTはデータが貯まらないと分析がはじめられないので”早く始める”が鉄則だった。その常識も今や変わろうとしている」とコメントがありました。

生成AIのオペレーション支援、分析結果の活用への期待

ソラコム齋藤は、最近のIoTプラットフォームSORACOMにおける生成AI活用として、当日発表した「SORACOM Query Intelligence(ソラコム クエリー インテリジェンス)」をデモンストレーションを交えて紹介しました。

本サービスでは、SORACOMのプラットフォームで管理している回線管理のデータを、ユーザーが対話形式で生成AIにデータ分析を依頼し、対象となる情報をリストアップ、グラフ化、地図上にマッピングなど可視化してもらうことができます。

例えば、「通信がつながりにくい回線をリストアップして、地図上にマッピングしてください」といった依頼をすれば、生成AIが管理する回線をチェックして一覧、図示してくれます。

齋藤は、これまでデータ分析の専門知識を要した業務や、手間がかかった集計作業も、日本語で指示して結果が得られるようになれば、オペレーション業務も一層改善が進むだろう、と話しました。

また、SORACOMの新サービス「SORACOM Flux(ソラコム フラックス)」についても話題が及びました。本サービスは、IoTデータをインプットに、生成AIエンジンが分析し、その結果を元にアラート通知などの次のアクションをローコードで構築できるIoTアプリケーションビルダーです。

「SORACOM Flux」を利用して構築したIoTアプリケーションの例として、人が倉庫で転倒したときに、その画像から生成AIが状況を分析し、自動的に電話をかけて音声で通知するというデモンストレーションが紹介されました。このデモから発想を得て、登壇者は「データをインプットし、その結果を現実社会にフィードバックする」ユースケースの可能性について議論を交わしました。

製造業のデジタル活用に重要な”構想力”とは

セッション後半は、参加者からの質問を受けながらインタラクティブに進行しました。

まずひとつめは、「今の汎用的な生成AIエンジンは、どれくらいIoTデータは学習されているのか」という質問です。

「ソラコムでは、IoTデータをインプットすると、生成AIがこれは温度データ、これはGPSデータといったデータ種別や、時系列データに欠損があるといった指摘ができることを確認できています。これはすでにサービスとして提供しています」(ソラコム 齋藤)

「思った以上に、生成AIのエンジンには世の中のデータが網羅されている可能性がある一方で、最近のパラダイムとして特化させたほうが精度が上がるという議論もあります。なので、ある程度データ収集できてきたら、学習させるということも選択肢でしょう。しかし、今ある生成AIエンジンが使えるようならまず使って、知見を蓄えるのがよいという考えです」(松尾研究所 金氏)

次に、「IoTを日本の製造業のチャンスにするには?」という質問があり、登壇者は各々の意見を紹介しました。

「IoTはインターネットだけで完結せず、モノのデータをインプットにAIが分析し、その結果に沿ってモノを動かすまでがひとくくりという考えに沿って考えると、モノに関する知見と技術をもつ日本の企業にとってIoTはチャンスと言えるでしょう。これまではただ安くするという方向があったが、日本の高品質に裏付けされた知見があれば、より高い精度、細かい制御といった価値を提供できる方向を強められると思います」(ソラコム 齋藤)

「チャンスである一方で、モノにこだわりすぎると逆にピンチでもあります。モノを開発してきたエンジニアの多くは組み込みエンジニアかと思います。ハードウェアのスペックや内側だけにとどまらず、コネクテッドを意識することが重要です。そのためには、ソフトウェアエンジニアの地位向上、トップの理解と掛け声がないと進まないでしょう。

“コネクテッドを意識する”とは、つながることそのものではなくて、モノをつないでデジタルツインにした後に、”お客さまにどんな便益を提供するか”を考えることです。お客さまの便益から考えることが重要です」(フジテック 友岡氏)

「今の話はとても重要です。これからは”構想力”が重要になってきます。モノが意識を持って話しかけてくるような時代がそこまで来ています。モノづくりとデジタルの価値を理解し、すでに始めている会社もあります。例えばコマツのスマートコンストラクションなどはその代表事例でしょう」(入山教授)

加えて、入山教授は自身の著書「両利きの経営」の言葉を用いて解説しました。

経営者は、新しいことをやらないと生き残れず、そのためには新しい事業のためのアイディアを求める「知の探索」と、既存業務を深掘りしさらに成長させる「知の深化」の両利きの経営が必要となります。

生成AIはこうした活動にも役立ちます。生成AIは、「知の探索」においては、人のつながりから得られる情報や関係性を除けば、自身に変わって情報を収集し調査してくれます。そして「知の深化」においては、ここまで議論してきたように、よりノウハウや専門知識を要していた業務や、量と質を求められるオペレーションを支援・効率化してくれます。

最後に改めて各社から「まずやってみてください」、「進化しつつある時が一番おもしろい、今取り組むべき」と、参加者のチャレンジを後押ししてセッションは締めくくられました。

本セッションの資料は、以下で公開しています。

最後に

SORACOM Discovery2024の資料は、カンファレンスのサイトで公開されています。他のセッションの資料もぜひご覧ください。

ローコードアプリケーションビルダー「SORACOM Flux」は、無料でご利用いただける枠がございます。ぜひお試しください。

ソラコム 田渕/kyon