本記事は、ASCII.jp(株式会社角川アスキー総合研究所)に掲載された記事より転載/再編集したものです。
元記事:https://ascii.jp/elem/000/004/145/4145098/ 文:大河原克行 編集:大谷イビサ
2023年7月5日に開催されたイベントのレポートです。
ソラコムの年次イベント「SORACOM Discovery 2023」が、2023年7月5日、6日の2日間に渡って開催された。オンラインで開催された初日の特別講演では、ソラコムユーザーであるヤマト運輸、Go、フジテックをゲストに迎え、AIとIoTの可能性について議論が交わされた。
ヤマト運輸、フジテック、GoをゲストにAIとIoTの可能性を探る
国内最大級のIoTカンファレンスと位置づけられる同イベントは、2016年の初回開催から年々規模を拡大。2023年のテーマは「Connect – Reconnect」とし、40以上のセッションを通じて、DXがもたらす未来の姿を示しながら、IoTの最新トレンドやビジネス活用事例、ソラコムの最新サービスなどを紹介している。
開催初日はオンラインで開催。ソラコムの玉川憲社長の基調講演が行なわれた2日目は会場でのリアル開催という構成だ(関連記事:生成AI×IoT、グローバル展開、衛星通信など 今年もソラコムはトピック満載)。SORACOM Discoveryのリアル会場での開催は4年ぶりとなる。なお、会場では30社以上の企業が出展する展示エリアも用意された。
開催初日に行われた特別講演「AIとIoT、テクノロジー活用と事業の変革」では、ソラコムの社外取締役を務める早稲田大学大学院/早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏がモデレーターとなり、「クロネコ見守りサービス」を開始したヤマト運輸、エレベーターやエスカレーター事業を世界で展開するフジテック、タクシーアプリ「GO」を提供するGOの3社が、テクノロジーを活用した競争力向上のための事例について、トーク形式で説明。参加者同士が質問し合うなど、活発な議論が行われる内容になった。
10年後、20年後にはメインのサービス? クロネコ見守りサービス
冒頭、入山氏は「日本の企業の特徴は現場が強いという点。現場の力を実装し、世界に飛躍させるにはIoTが鍵になる。その取り組みを第一線で実現している企業に集まってもらった」と切り出し、各社のIoTの活用を披露した。
ヤマト運輸では、スタートアップ企業が開発したIoT電球「ハローライト」を活用した高齢者の見守りサービスを提供していることを紹介(関連記事:IoT電球を起点にしたヤマト運輸の見守りサービスとSORACOM)。ヤマト運輸 地域共創部・地域共創部長の櫻井敏之氏は、「日本の全人口の20人に1人となる約700万人が、1人暮らしの高齢者になっている。このサービスは社会貢献のひとつにもなる」と説明した。
ヤマト運輸はクロネコ見守りサービスとして、ハローライト訪問プランを提供している。「ハローライトのなかには、ソラコムのIoT SIMを搭載。IoT電球のオン/オフが確認できない場合には、家族などにメールで通知するほか、通知先の依頼に応じて、ヤマト運輸のスタッフが設置先を訪問して、安否を確認することができる。カメラなどとは異なり、監視されているという意識がなく、見守りができること、クロネコヤマトのドライバーが培ってきた親しみやすさや、安心、安全の信頼性を組み合わることで成立するサービスである。初期費用なし、月額1078円で利用でき、すでに1万件を突破している。ヤマト運輸にとって、10年後、20年後のメインのサービスになる可能性もある」などとした。
ヤマト運輸では、21万5000人の社員が、全国3400拠点から、5万5000台の車両を利用し、年間22億7562万個の荷物を取り扱っている。こうしたインフラを利用することで実現できたサービスだといえる。
ソラコム 執行役員 VP of Salesの齋藤洋徳氏は、「セルラー回線を使ってモノを作るというハードルは下がっている。だが、それを使ってビジネス化するという点ではまだギャップがある。ハローライト訪問プランは、デジタルとサービスインフラの組み合わせによって、実現したビジネスであり、大企業とスタートアップ企業の連携によって実現した好例にもなる」と語った。
タクシーとエレベーターでIoTの可能性を追求したGoとフジテック
Goでは、タクシー車内でのIoT活用による機器間連携について説明。タクシーメーターを中心として、各種機器をBluetoothやWi-Fiを活用し、利用客のタブレットなどに料金情報を送信したり、乗務員のタブレットから実車中、空車中などのステイタスを送信したりといったことができるほか、自動車の状況をプローブデータとして収集できるようになっていることを示した。また、車両の位置情報とビッグデータを利用することで、99.9%の確率で配車予約を可能にする「AI予約」や、AIを活用したタクシー需要予測に基づいて、営業収入を最大化する「お客様探索ナビ」を実現していることも紹介した。
GO 取締役 IoT本部本部長の青木亮祐氏は、「Goアプリによる配車のロジックは、日々改善を加えており、スピーディに配車できるようになっている。今後は、EVの導入に向けて、営業効率を下げずに充電する仕組みも開発しているところだ」という。また、データの収集の際に、ネットワークの不具合で欠損が起こらないように、ソラコムのeSIMを利用していることも示した。
ソラコムの齋藤氏は、「数多くのデータをあらゆるものから収集する際に、セルラー回線でデータを収集するだけでなく、Wi-Fiや有線で収集するといったことも必要である。だが、その際にシステムとして分離されることも多く、データの統合が課題になる場合がある。ソラコムのSORACOM Arcにより、任意のネットワークから各種プラットフォームサービスを利用できる。データを収集する経路を複数にすることができる」と述べた。
フジテックでは、Google MapのAPIを利用した統合地図システムについて説明。平常時には、エレベーターなどの契約状況や保守状況を表示する一方、地震発生時などには、停止状況や復旧状況をリアルタイムで情報共有し、普及支援ツールとしても活用できる仕組みを構築したという。既存システムをそのままに3カ月で開発したのが特徴だ。
フジテック デジタルイノベーション本部テクノロジー研究部長の小庵寺良剛氏は、「地震が発生し、一定の震度を検知すると、エレベーターは、安全のために最寄階に移動して停止する。軽度の場合には自動診断で仮復旧するが、最終的には保守員が現場に出向き、1台ずつ安全を確認する。保守員が効率的に出向き、早期復旧するために活用している」という。
エレベーターにはソラコムのIoT SIMを利用。AWSのインフラを活用して運用している遠隔監視システムとの接続には、SORACOM VPGを採用し、セキュアに通信できる環境を構築している。これをグローバル向け標準方式として採用している点も特徴だ。フジテックでは事業の6割が海外だという。「海外展開する際にも、各国の通信キャリアとの契約が不要で短期間で導入が可能になる。閉域網により、セキュアなデータ収集が可能になる。台数が増加した場合にも柔軟に対応できる点がメリットである」と語った。
生成AIの登場はソラコムにとってチャンス
今回の特別講演のテーマである「IoT×AI」についても議論が行われた。
入山氏は、「生成AIの登場は、ソラコムにはとってはチャンスだと考えている。ChatGPTによって、プログラムを書くことで、IoT連携が促進されることになる」と指摘。ソラコムの齋藤氏も、「つなぐことがソラコムのビジネスであるが、AIの民主化によって、専門家以外でもAIが使えるようになると、つないだ先のデータに対しても新たなサービスが提供できるようになるだろう」とした。
ソラコム社内では、「これまでのIoTは、自分の会社のなかだけで成立しているイントラネット・オブ・シングスに留まっていた」という議論があるという。「IoTの領域に対して、ChatGPTなどが広がれば、異なる企業同士が有機的につながり、顧客にとって最もいいサービスが提供できる世界がやってくる。横展開の広がりに期待したい」(入山氏)と述べ、ソラコムの齋藤氏も、「業界ごとに異なるデータフォーマットを、AIがひとつに統一し、連携ができるといったことにも期待したい」と語った。
GOの青木氏は、「AIを活用することで、開発効率を高めることに期待している。すでにコード生成にChatGPTを利用している」としたほか、ヤマト運輸の櫻井氏は、「これまでの物流はIoTで進化してきた。今後は、AIを活用することで顧客サービスを高度化したり、効率的な配送ルートの選定などができたりするようになるだろう」と発言。
フジテックの小庵寺氏は、「定期点検の際にも、保守員が現場に最短ルートで行けるようにしたり、災害発生時に問い合わせが集中した際にAIによる自動応答に採用したりといったことも考えている。社内でもSlackを入口にしてChatGPTを活用しており、説明会には3000人の社員のうち、500人が参加した」などと述べた。
ソラコムでは、ChatGPTを社員全員が利用できるようにしており、サポート業務に利用したり、メールのひな型文章の生成に利用したりといったことを検討しているという。入山氏は、大学で使用する試験問題の作成にChatGPTを利用しているという。
また、宅配やタクシーの利用は、11月から12月にかけて集中する傾向があり、平時の需要や集中時のデータのほか、気候やイベントなどの情報を加味して、AIによって精度が高い需要予測を行い、最適な配車やドライバーの確保につなげたいという声もあがった。
総合格闘技のIoTを900社のパートナーと支援
一方、IoTの活用についても、それぞれの取り組みから言及。GOの青木氏は、「IoTは、手段のひとつであり、手段の自己目的化になるとうまく行かない。データの欠損があったり、すべての機器間連携ができなかったりということを前提として開発したほうがいい。そうしたないとIoTは失敗する」と提言。「今後はクルマと街との接続にも取り組み、モビリティを中心としたつながりへと広げていきたい」とした。
また、フジテックの小庵寺氏は、「IoTは、まずは小さく始めることが大切である。失敗するのであれば、早く失敗して、別のやり方を考えるべきである」と指摘しながら、「エレベーターやエスカレーターを、安心、安全に使ってもらえるように、IoTやAIを積極的に活用したい」と述べた。ヤマト運輸の櫻井氏は、「IoTとAIを組み合わせることで、日本のサービス業の生産性を高め、地域課題の解決にも取り組みたい。そのためには、さまざまな企業と関わっていくことも必要である」とした。
ソラコムでは300以上の事例を公開しており、IoTの実現に向けた支援を行なっているが、「IoTは総合格闘技と言われるほど、様々なテクノロジーが関連しており、1社で解決することが難しい。ソラコム自らが相談に乗るだけではなく、900社以上のパートナーを活用した支援も行っていきたい」(ソラコムの齋藤氏)と述べた。
入山氏は、「人手不足などの影響もあり、日本の現場が大変になってきている。しかもイノベーションが求められている。ここにIoTやデジタルが入ると、日本の現場力がもう一段高まり、日本全体の競争力を高めることができる。また、現場から数多くのデータが収集されるが、データの選別や仕分けも重要になるだろう。ここにはAIが活用できる。IoTとAIは密接に関わるものになる。これから面白い時代が訪れる」と語り、特別講演を締めくくった。
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