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ソラコムの2人に聞いた そもそもプラットフォームってなに?

本記事は、ASCII.jp(株式会社角川アスキー総合研究所)に掲載された記事より転載/再編集したものです。
元記事:https://ascii.jp/elem/000/004/104/4104272/ 文:大谷イビサ 写真:曽根田元

 IoT(Internet of Things)という用語が登場して久しいが、ではIoTってなに?という問いにきちんと答えられる読者はいるだろうか? そこで本連載では、IoTプラットフォームを展開しているソラコムのtakuyaこと桶谷拓也氏、Maxこと松下享平氏に「IoTとはなんぞ?」というテーマで対談に挑んでみようと思う。今回のテーマは「IoTプラットフォーム」。日常的に使っている用語だけど、みんな理解してる? (以下、敬称略 モデレーター ASCII編集部 大谷イビサ)

SORACOM=カレールーである

大谷:前回はIoTの通信がテーマでしたが、今回はプラットフォームがテーマです。SORACOMって「IoTプラットフォーム」っていうじゃないですか。まず松下さんってこのIoTプラットフォームを、どう説明しています?

松下:「お客様がサービスやプロダクトを作る際に使える仕組みやツールが提供される場」と言っています。

プラットフォームって多くの人がなじみを持っているのは、やはり駅ですよね。駅って線路の規格さえあっていれば、基本的にはどの電車でも乗り入れることができるし、どんな乗客も受け入れられる。駅ビルには、電気や水道、ガスなどのインフラも揃っているので、なんなら集客も駅ビル側がやってくれる中で商売することも可能です。お客様、すなわち鉄道会社やお店がやりたいことに集中させるのが、プラットフォームの役割だと思っています。

Maxことソラコムの松下享平氏

大谷:桶谷さんはどうですか?

桶谷:私はソリューションアーキテクト(SA)なので、お客様から「SaaSとどこが違うんですか?」と聞かれることはよくあります。

SaaSって機能追加はあるにせよ、すでに完成していて、アカウントを作れば、あとは使うだけ。一方で、プラットフォームって、完成品ではなく、パーツを組み合わせて、やりたいことを実現していくものですと説明します。

大谷:SaaSって使い方がすでに決まってるじゃないですか。プラットフォームは使い方も自由度が高いですよね。

桶谷:サービスの説明や利用パターンなどは解説しますが、使い方はお客様次第みたいなところがあります。だから、想定外の利用方法をしているお客様はたまにいますね。

takuyaことソラコムの桶谷拓也氏

大谷:このプラットフォームの対談をやるときに、私は言いたいなと思っていたのは「SORACOM=カレールー」説です。要はスパイスからカレーを作らない、ということだと思うんです。

自分の中ってIaaSって、いわゆるスパイスのレベル。私のようにカレーが好きな人だと、あこがれとしてスパイスからカレー粉を作るんですけど、残念ながらあまりうまくできない。だったら、店で食べたり、レトルトで温めればいいじゃんというのが、いわゆるSaaS。そして、半完成品のカレールーって、私からするとプラットフォームです。ツールが用意されているという点はやや違うんですけど、レイヤー構造で考えると、SORACOMって野菜と肉を炒めて、いっしょに煮込めばおいしいカレーができるカレールーだと思うんですよね。

松下:それはかなり言い得て妙ですね。確かに、私も「材料を混ぜれば料理ができる、合わせ調味料みたいなもの」って言いますね。

もちろん、作りたいモノはある程度決まっているんだけど、最終的にはどう作ってもよい。カレーだったら、カレーライスでもいいけど、パンに塗っても、うどんに入れてもOKみたいなところはありますね。豆腐にのせたらうまかったとか、餃子に詰めたら意外とイケたみたいな、さっき桶谷が話した、われわれが想定しなかった使い方も出てくるんですよね。

大谷:クラウドの世界って、わりと車輪の再発明しないことが美徳とされるじゃないか。でも、けっこう多くのユーザーが「せっかく作るのならこだわって…」と、スパイスからカレーを作りたがるんですよね。

松下:しかも器用な方が多いので、そこそこのものができちゃうんですよね(笑)。でも、このスピードが求められる時代において、ゼロから作ることが必ずしも良いわけではないと考えています。

プラットフォームとしてのSORACOMのメリット

大谷:では、具体的にプラットフォームとしてのSORACOMって、どんなメリットがありますか?

松下:スピードという観点で、大きく2つあります。

1つは今提供されているサービスがいち早く利用できるという価値です。SORACOMのIoT通信は、お手元にSIMが届いてから回線開通まで本当の意味で「即時利用」できます。内部的には自動化しているからこそ実現できているのですが、これをゼロから作るのではなく「自動化済みの仕組みを利用できる」というのが、SORACOMの価値です。

もう1つは、SORACOMにはお客様からさまざまなIoTの知見が集まっていますので、お客様はこうした機能が必要となるかもしれないと、先回ししてサービス化することもあります。お客様が使いたいときに、すでにサービスがあるわけです。

大谷:IoTに関して先進的な事例をいっぱい持っているので、そのノウハウを活かしたサービスを提供すれば、あとから続くユーザーもその先人たちのノウハウが詰まったサービスを使えるよというイメージですね。

松下:もちろん、最初から両輪であったわけではなく、まずは今提供されているサービスの速度感を上回るサービスを目指しました。たとえば利用開始の契約一つにしても、オンラインで完結できるようにしています。紙の契約書や押印のやり取りが不要です。そして、オンラインで注文いただければ、場合によっては明日には届くといったスピード感なんです。クラウドによってサーバー調達の時間を圧縮できたのと同様に、回線利用までの時間を削減しています。こういった特徴を活かして、たとえば「電源ONですぐ使える、通信入りIoT製品」といった、新たな価値を創り出す土壌になるわけですね。

その結果、多くの人たちがサービスを使ってくれるようになり、システムで使ってくれたのでIoTの先進事例ができ、サービス化できるようになったというサイクルになります。

大谷:プラットフォームのメリット、桶谷さんはどう考えますか?

桶谷:やはりいつでも使い始められる。そしていつでもやめられるところにメリットがあると考えています。システムって、カットオーバーした瞬間からどんどん陳腐化が進むと思うのですが、SORACOMならいつでも始められるし、簡単にやめられるので、システムの新陳代謝を促進できます。これが、プラットフォームを利用する醍醐味なのかなと思います。

通信だけじゃなく、クラウド連携も最初から全体像に入っていた

大谷:では、改めてSORACOMのプラットフォームの進化を教えてください。

松下:2015年のサービス開始時のSORACOMプラットフォームはこちらです。

2015年のSORACOMプラットフォーム

まずは今もサービスの屋台骨であるコネクテビティとして、IoT向けデータ通信サービスのSORACOM Airがあります。

その後には、USBドングルも提供開始しています。というのも、今でこそラズパイやArduinoはメジャーになっていますが、当時はそもそもIoTデバイス自体がなかったため、つなげる手段が欲しいというフィードバックを多くいただきました。そこで、PCをIoTデバイスとして使うために、USBドングルも用意したんです。

あとは、通信を簡単に管理できるWebの管理画面も用意しています。また、IoTの通信は数十万、数百万回線となりうることを前提として、プログラムで一括制御できるAPIやCLI、SDKなども最初からリリースさせてもらっています。

大谷:このAPIとWebの管理画面が、クラウドネイティブなSORACOMならではという感じがしますね。

松下:加えて、単純にデータ通信でインターネットでつながればいいかというと、そうではないこともわかっていました。創業者の玉川や安川がお客様にヒアリングしたところ、インターネット接続だけでなく、クラウド上でのデータ共有や活用や共有が、IoTの本質であることに気が付いたんです。クラウドが連携できる仕組みが不可欠だったわけです。

そこでサービス開始時に、データ転送を支援する「SORACOM Beam」はSORACOM Airといっしょにリリースしています。Webの開発技術だけでクラウドやデータセンターにデータを送り込む。通信とクラウド連携はソラコムが最初から思い描いていた全体像です。

大谷:当初、SORACOMって当初格安SIM屋さんみたいな理解もされていたと思うのですが、SORACOM Beamって単に通信だけではなく、IoTってこうあるべきみたいな方向性を示したという意味で、プラットフォーム前提のサービスだなあと思いますね。

松下:2015年当時ですと、SORACOM=格安SIM屋さんみたいに紹介されてしまうのはある意味しょうがなかったんです。いくらIoT向けと言っても、サービス表を見ると、やっぱりSIMや通信プランが価格表としてあったわけで。

とはいえ、SORACOM Beamを最初に出したおかげで、ソラコムがどこを向いているのかは明確にできたと思います。

プラットフォームの成長はひとえにお客様の声から

大谷:そして、現在のサービスがこちらですね。もはや曼荼羅。

2022年のSORACOMプラットフォーム

松下:はい。まず一番大きかったのが、IoTデバイスの保護と書かれているネットワークレイヤーの充実ですね。

たとえば、かなり早い段階でリリースされた「SORACOM Canal」こちらは閉域網やプライベートネットワークと呼ばれる、閉じたネットワークを作ることができるサービスです。「SORACOM経由でクラウドにデータを溜めるのはいいんだけど、通信経路のセキュリティってどうなってるんですか?」とか、「インターネットから閉じてくれた方が安心して使える」といったお客様の声に応えるサービスです。

大谷:やはりセキュリティの懸念ですか?

松下:やはりIoTデバイスって、インターネットで公開されていると、勝手にハックされ、悪事に使われてしまう。スマートフォンなら、人が使っているので怪しい挙動に気がつく可能性がありますが、IoTデバイスは、数も多いので運用面での工夫が必要になります。そこでより安心して使ってもらう仕組み、デバイスを保護する仕組みが必要になったわけです。

ここまでのSORACOMのサービスで「つながります」「管理できます」「クラウド連携できます」「安心して使っていただけます」までできるようになると、よりアプリケーションに近いサービスが必要になります。こうした声を受けて、データを溜めておける「SORACOM Harvest」だったり、ダッシュボードを作成できる「SORACOM Lagoon」のようなサービスが生まれています。

大谷:SORACOM HarvestやLagoonはある意味、ソラコム自体のSaaSですよね。当初はSORACOM Beamをはじめとして、AWSやAzure、Google Cloudなどパブリッククラウド連携を前提としてサービスを作ってきたけど、いざふたを開けてみたら、SORACOMがワンストップで提供する必要があったということですよね。

松下:おっしゃるとおりです。これはひとえにお客様からのフィードバックが大きかったですね。

IoTってデバイス、クラウド、ネットワークという3つの要素で説明しているのですが、お客様の方ですべてを掌握するのは大変です。なので、何か1つでもSORACOMで肩代わりしてくれないか?と(笑)。通信とデバイスの間で、ソラコムがクラウドサービスやってくれないかなあという声ですかね。

大谷:IoTってよく総合格闘技と言われますが、そのうちの一部はSORACOMに任せられるということですね。

数十万、数百万回線を前提としたオススメ機能

大谷:こうしたサービスの中で好きなモノってありますか?

桶谷:個人的に好きなサービスと言われると、サービスからさらに一歩深い話になるんですが、SORACOM BeamやSORACOM Funnel、SORACOM Funk、SORACOM Harvestに同時にデータを送れるUnified Endpointという機能が好きです。

SORACOMっていろんなネットワークからつなげるという「Network Agnostic」、いろんな送り先に連携できるという「Cloud Agnostic」を指向しています。Unified Endpointを利用すると、BeamやFunnelなどつなげるサービスの使い方をさらに拡げることが、柔軟にできるようになります。

たとえば、最初はBeamにだけ送っているけど、後からFunkに送りたいみたいな要望にも対応できます。あとから作り替えていくときに楽に変更できるという点が好きな理由です。

松下:Unified Endpointに送っておけば、あとなんとかなるみたいな。

桶谷:そうそう。Beamって特定のエンドポイントにデバイスからデータを送らなければならないので、BeamからFunkに変えようとすると、デバイス上に書かれたエンドポイントを変更する必要があります。でも、Unified Endpointに送っておけば、SORACOM上で制御できます。

大谷:営業の現場ではけっこうオススメするんですか?

桶谷:もちろん話題に挙げます。実はUnified Endpoint自体は無料で使える機能なんです。SORACOM上のいろいろなサービスを利用いただけるきっかけになりますし、なによりお客様の将来を見据えた提案にもなるので、お客さまにも提案すると喜ばれる機能です。

大谷:松下さんの好きなサービスはどれですか?

松下:僕もさっきのサービスの中にはないんですが(笑)、回線にタグ付けをできるメタデータサービスの機能です。これも初期の頃からあるSORACOM Airで使える無料の機能になります。

一般的には「通信回線にタグで情報付ける意味あるの?」と思われそうですが、ソラコムが当初から描いている数十万、数百万という回線数が前提なら必須です。クラウドの世界では、すでにインスタンスの個別管理から、コンテナでワークロードを大量にこなす時代に突入しています。IoTも通信回線をまとめて扱うわけです。そこで、メタデータサービスで論理的な管理情報を通信回線にひも付ける必要性が増してきます。

すでにうまく使ってくるお客様もけっこういて、通信回線が多い会社では特にメリットを実感してくれています。

大谷:なるほど。でも、どうやって使っているんですか?

松下:大きく2つあって、1つ目は回線名や用途、通信先などを書き込んでおく物理的なタグと同じ使い方です。2つ目は、APIでSIM自身のメタデータやタグを取得できることを利用して、IoTデバイスをグループにして設定情報を書き込んでおくと、たとえば通信を開始したときに初期設定を読みこむ、といった使い方ができます。回線やデバイスの設定自動化や更新にご利用いただいています。

大谷:当初から数十万、数百万の回線を前提にプラットフォームとして設計されてきたわけですね。

「これ使えばもっと便利になるのに」は意外とない

大谷:実際の事例でいい使い方があれば教えてください。

桶谷:私が気に入っているお客様の活用例は、「SORACOM Arc」と「SORACOM Gate」の組み合わせです。

SORACOM Arcは仮想SIMを発行することで、どこからでもSORACOMにつなげるというサービスなんですが、これを使うとD2D(デバイスtoデバイス)でクラウドを使うことができます。たとえば、AWSであればAmazon EC2にSORACOM Arcを入れてもらえば、仮想サーバーをIoTデバイスのように扱うことができ、デバイスのネットワークに参加できます。

SORACOM Arcのサービス概要

SORACOM Arcが出た当初は、あえてWi-Fiや有線LANからSORACOMプラットフォームに接続するメリットを模索していましたが、既存の設備が流用できるという点が見えてきました。C2C(クラウドtoクラウド)ってネットワーク同士なので、専用線とか大がかりになりがちなんですが、SORACOM Arcなら簡単につなげます。

また、IoTシステムの開発時にもSORACOM Arcは役立ちます。たとえばデバイスから任意のデータをサンプルで送るのってデバイスの実機を用意したりと手間がかかりますが、、SORACOM ArcであればパソコンをIoTデバイスのように扱えるため、コマンドからサンプルデータを送れます。すごくいい事例が、もうすぐ出せるはずです(笑)。

大谷:SORACOMってプラットフォームとして、いろいろなサービスを提供しているじゃないですか。桶谷さんとしては、お客様に対して、このサービスを使えばもっと便利なのにとか、使ってなくてもったいないなあと感じることってあるんじゃないですか?

桶谷:いや、それがあまりないんですよね。

SAとして案件に入っているのですが、あくまでもお客様が実現したい事を支えるのがプラットフォームの役割ですから、お客様の実現したいIoTが可能になる、課題が解決できるなら、極論SORACOMサービスを無理に使う必要はないと思っています。たとえば、Beamを使えばデバイス側の実装は楽になるんですが、デバイスの実装がほぼほぼ終わっている段階で会話をスタートするようなケースでは、追加の実装のためのリソースが必要となり、プロジェクトが成果を得られる時期を遅らせてしまうこともあります。状況によっては、そのままの構成で進めた方が、お客様のためにもなります。

大谷:うわ、かっこいい。

プラットフォームのスタックでお客様の価値をもっと高くしたい

大谷:最後、プラットフォームとしての今後のソラコムの方向性を教えてください。

松下:お客様がIoTで実現したいことは、お客様の数だけあります。一辺倒の機能提供ではなく、お客様の状況に応じて選んでいただける選択肢を提示することが、最終的にお客様の利益につながると考えています。

例を挙げれば、通信は最初はセルラーを提供していました。そこへ長距離の省電力無線通信「Sigfox」が選べるようになり、SORACOM Arcの登場で既存のWi-Fiや有線も選択できるようになりました。こういう組み合わせの自由が、新たな価値を生む土壌だと思います。

大谷:クラウドの世界はまさにつなげて、連携して、価値を高めるのが魅力ですからね。

松下:冒頭の「プラットフォーム=駅」の話ですけど、乗り入れる路線が多ければ多いほど、お客様のメリットになるんです。だから、「何線が乗り入れてくれたら便利ですか」「どんなお店が入ったらうれしいですか」みたいなお客様の声を聞きながら、プラットフォームのレベルを高めていきます。

桶谷:ソラコムがいて、パートナーがいて、お客様がいて、みんなでプラットフォームを進化させていくというイメージですかね。AWSのJAWS-UGのようなユーザーグループがあれば、ユーザー同士での情報交換がすごく発達し、AWSが想定していなかった使い方やアンチパターンが出てくる。こうしてプラットフォーム自体が大きく、成長していくんでしょうね。

松下:CTOの安川も「AWSがなければ、SORACOMができなかった」と公言していますが、やはりプラットフォーマーとしてはAWSをオマージュしています。技術的にはプラットフォーマーであるAWSにSORACOMが乗っかっていますし、SORACOMの上にもどんどん乗って欲しい。これがSaaSでもない、インテグレーターでもない、プラットフォーマーとしてのソラコムの立ち位置です。

こういうスタックによってお客様のサービスの価値を高められれば、まさにプラットフォーマー冥利に尽きます。テクノロジーももちろんですが、人のつながりも含めて、乗り入れて魅力のあるプラットフォーマーになりたいですよね。

大谷:ありがとうございます!

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(提供:ソラコム)