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神戸の劇場型アクアリウム「átoa」を支えるIoT ソラカメで動物の生態研究も

本記事は、ASCII.jp(株式会社角川アスキー総合研究所)に掲載された記事より転載/再編集したものです。
元記事:https://ascii.jp/elem/000/004/172/4172835/ 文:大谷イビサ 写真:曽根田元

 神戸港にある都市型水族館「átoa(アトア)」では、フィルム型センサーとSORACOMを用いた安価な漏水対策を実現した。また、ソラカメとAIを組み合わせることで、動物たちの生態研究にもつなげようとしている。átoaの担当者とパートナーである神戸デジタル・ラボに、水族館×IoTでの試行錯誤について聞いた。

アクアリウムとアートの融合を掲げた都市型水族館átoa

圧倒的な非日常体験を提供する水族館 漏水対策に課題

 2021年10月にオープンした「átoa」は、アクアリウム(Aquarium)とアート(Art)の融合というコンセプトを掲げた都市型水族館。神戸市中央区の新港突堤西地区と呼ばれる一角にできた神戸ポートミュージアム(KPM)の2~4階にあり、59基の水槽に約100種類、3000点の生物が展示されている。

神戸港にある神戸ポートミュージアム(KPM)

 átoaはアクアリウム×アートを謳うだけに、舞台芸術やデジタルアートなどがふんだんに盛り込まれており、普段われわれがイメージする水族館とは大きく異なる。館内の8つのゾーンはテーマに基づいた音や光、映像の演出が施されており、圧倒的な非日常体験を味わうことができる。

 また、魚だけでなく、水とともに生きるさまざまな生き物にも会うことができ、オリジナリティあふれるフードやドリンク、グッズなども用意されている。近くには神戸の定番スポットであるハーバーランドやメリケンパークなどもあり、「フェリシモチョコレートミュージアム」も隣接している。神戸の新名所として、ぜひ訪れたい場所と言える。

アクアリウム×アートでデジタルアートが融合したátoa
さまざまな魚や水生生物に出会える

 さて、見た目華やかな水族館はスタッフたちによる不断の運用で支えられている。特に水族館は大量の水を使う施設なので、漏水対策が必須。水槽に亀裂が入るような破損事故は実はあまりないのだが、配管の老朽化、水交換時の人為的ミス、水草などによる排水の詰まりなど、漏水の原因はさまざまだ。水族館の運用を効率化するátoa施設課の課長を務める石原孝氏は、「お客さまには見えないところで、漏水はいつでも起こりえます」(石原氏)。

átoa施設課長 学術推進・支援チーム 石原孝氏

 水族館にとって漏水の影響は大きい。石原氏は、「átoaの場合は、建物の1階は別のテナントが入っているので、漏水で電気系統がショートすると、建物全体に影響が及ぶ可能性があります。漏水で水槽の水が抜けると、最悪、魚が死んでしまう可能性もありますし、規模によっては営業停止に陥ります」と語る。

 従来、水族館の漏水対策は中央監視前提の高価なシステムが必要だった。そのため、よほど大きな水槽で、漏れたら致命的という箇所しか水漏れセンサーは付けられないという。「あとから取り付けるのも高価ですし、工事で水槽を何日か止めないといけません」と(石原氏)。そのため、実際は現場の工夫や運用でカバーされていることも多いという。

 また、中央監視型システムの場合、センサーはあらかじめ施設に埋め込まれてしまうことが多く、金属製のセンサーは⽣き物が住む⽔槽にはできれば⼊れたくないという現場の声もあった。現場で運用を支援する施設課の中島亮氏は、「コストを抑えつつ、現場で手軽に設置運用できるような漏水センサーはないだろうか?と思っていました」と振り返る。átoaに限らず、多くの水族館でカジュアルな漏水対策が求められているのである。

átoa施設課 中島亮氏

精度を高めるための試行錯誤は現場で実施

 こうした声に対して地元神戸でシステム開発を手がける神戸デジタル・ラボ(KDL)が提案したのが、帝国通信工業の「静電容量式水位センサー」を用いた漏水検知ソリューションだ。静電容量式水位センサーは、フィルムセンサー(薄いシート型のセンサー)で、帝国通信工業では神戸デジタル・ラボの協力のもとで、この水位センサーを改良した「No-Blue」を提供している。

帝国通信工業の静電容量式水位センサーを改良したNo-Blue

 もともとは別の水族館で漏水の課題について聞いており、解決策を検討していた神戸デジタル・ラボが展示会でフィルム型センサーを見つけ、メーカーである帝国通信工業との協業を申し入れたのが2020年頃。

 átoaに漏水検知ソリューションとして提案したのが、コロナ渦が落ち着いた2022年の夏頃。以降、神戸デジタル・ラボでIoTを担当する中西波瑠氏がフロントに立ち、átoaといっしょに漏水対策の共同開発を進めてきた。

神戸デジタル・ラボ デジタルビジネス部 Engagement Lead Evangelist/IoTアーキテクト 中西波瑠氏

 当初はL字型のセンサーを水槽に貼り付け、漏水したらアラートが上がるという仕組みだったが、うまく検知できなかった。「飛沫がかかったり、湿気でセンサー全面が濡れてしまうと、漏水と認識してしまいました。アラートが上がったので夜中に見に来たら、水滴だったということもありました(笑)」と石原氏。その後、センサーの形状を先割れるように変更し、両方の先端が水に浸かると、水の中で通電し、漏水を検知するように改良した。これにより、片方が濡れる程度では誤検知せず、精度は一気に向上した。

 No-Blueが水に触れると、信号がデバイスに流れ、SORACOM LTE-M Button Plusを経由して送信。ダッシュボード作成・共有サービスのSORACOM Lagoonに送られ、さらにLINEで通知される。「専用アプリも作れるのですが、現場で新たな事を覚える作業負担イメージが先行し、使ってもらえない。LINEであれば、説明なく使える方がほとんどなので、導入の敷居が低い」と中西氏は語る。通知は個人ではなく、グループ宛に来るため、そのままチームでのやりとりを経て、対応を協議できるというメリットがある。また、通知に関しては、SORACOM Lagoonに履歴を残すようにしている。「配管が詰まりやすいとか、今後は運用改善に向けたエビデンスにできればいいと思います」(中西氏)とデータ活用も提案していきたいという。

信号はSORACOM LTE-M Button Plusを経由してSORACOM Lagoonに

初のエンドユーザー向けビジネス、SORACOMでなければ難しかった

 こうした改善はすべて現場からの試行錯誤から生まれたもの。「átoaさんからのフィードバックを元に、われわれもこまめに改良を繰り返すことで、誤検知を少なくできた」と中西氏は振り返る。苦労話について質問したところ、石原氏は「実は思ったほど苦労せず、いいモノを作っていただいたという印象です」と振り返る。

 実際、今回のソリューションは現場での設置や改良をしやすいというのも特徴。設置場所に合わせてセンサーの長さも自由に変えられるので、現場での調整もしやすい。中西氏は、「最初に設置したあと、1ヶ月経たないうちにátoaさんの方で、すでに改良されていました。センサーも簡単に交換できるし、設置場所も変えられます。だから、現場でいろいろ試行錯誤してもらっています」と語る。

設置場所に合わせてセンサーの長さも自由に変えられる

 SORACOMのメリットは、スモールスタートできる点だ。帝国通信工業の部品を販売する立場でもある中西氏は、「今まで部品を製造し、発注元に納めていたメーカーの帝国通信工業さんにとってみれば、エンドユーザーに直接製品を販売するのは初めての経験。ほぼ新規事業に近いんです。でも、SORACOMさんは通信はもちろん、SORACOM LTE-M Button Plusのようなハードウェアもあるし、可視化が可能なSORACOM Lagoonのようなサービスも用意されています。だから、提案してから僅か2ヶ月間でビジネスにまでこぎつけられました。SORACOMがなければ、難しかったと思います」と語る。

 今回、átoaで導入された漏水対策ソリューションは、水族館以外でもすでに利用されており、とある食品の加工現場では洗浄液の漏水検知に用いられているとのこと。「電源を入れれば、すぐに利用できる。後付け(設置)できるという点が評価されています。また、コンクリート造が多い水族館ではWi-Fiなしで通信できるという点も大きい」と中西氏は語る。中島氏は、「全館Wi-Fiが入るという水族館は少ないと思います。その点、ケータイの電波が入るところならどこでも使えるというのが大きいですね」と語る。

 átoaには、現時点で5箇所に設置されているのみだが、十分実用的なレベルに達しているとのこと。「本番運用に向けて、最低あと3箇所は追加したい。理想を言えば、水槽1つに対して1つずつ付けたい。バルブを閉めるとか、遠隔操作ができたら、さらにうれしい」と中島氏は語る。

ソラカメならAIのインプットにもってこい 今後は研究開発にも

 átoaでは、ソラコムのクラウド型カメラ「ソラカメ」も試験的に導入している。もとより、防犯用のカメラは館内各所に設置されているが、夜間の様子も気になる動物をどこからでも監視できるようにということで、急遽導入されたという経緯がある。提案した中西氏は、「タイムラプス撮影ができるネットワークカメラは高価で、安価なウェブカメラはセキュリティの観点からも不安な製品も多かった。でも、ソラカメなら大丈夫だろうということで、ようやくご提案できました」と語る。

館内に設置されたソラカメ

 安価で設置も容易にできるということで、現在ソラカメはカピバラやカワウソ、ペンギン、ワラビーなどの飼育舎に設置されている。中島氏は、「飼育員の方々もスマホを使って担当の動物をチェックしています。録画もできるので、朝来て動物の調子悪かったら、巻き戻して原因を探れます」と語る。

カピバラの飼育舎の上に設置されたソラカメ
上空からカピバラを見守る

 中西氏はソラカメについて「付ける場所を選ばないのは、とてもメリットです。暗いところでもノーマルモードでも明るく撮影できることも嬉しいです。夜間で消灯していても、ナイトビジョンで撮影できています」と指摘する。また、安価なカメラでありながら、APIが用意されている点もシステム開発会社としては大きなメリットだという。「ぶっちゃけ、1台目のカメラを差し上げてしまっても、簡単に利用できるのでお客さまで使い方を考えてくれます。課題に対して、われわれはAPIを使ったソリューションを提案できる。とても画期的です」と中西氏は語る。

 当初は動物たちの見守りにとどまっていたが、神戸デジタル・ラボで今試しているのは、AIによる動物たちの個体識別と移動経路の検出だ。「ソラカメであれば、画像自体が良質なので、十分にインプットに使えます」と神戸デジタル・ラボで、AI活用を研究開発する佐伯佳則氏は語る。そして、このAIによる分析は、お客さまも巻き込んで進めていく。具体的にはカメラの画像をユーザーによってアノテーションしてもらい、AIに向けた良質な学習データを提供していこうとしている。

神戸デジタル・ラボ デジタルビジネス本部 DataIntelligenceチーム 佐伯佳則氏

 本来、水族館は飼育している魚や動物の研究機関としての役割も持っているが、日々のオペレーションに手がかかりすぎて、研究にまで手が回らないという課題があるという。もちろん、研究開発のための原資を得るという点で、コストをかけず、できればビジネスにつながる仕組みが必要。そこで期待されるのがAIだ。「人手をかけずに動物たちの行動を記録し、水族館として分析し、研究開発につなげていきたい。アピールしていきたい。お客さまと楽しみながら精度を上げられたら、さらにいい。教育施設としての質も上げられる」と石原氏は今後の抱負を語る。

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(提供:ソラコム)