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4月6日はSIMの日! あなたの知らないSIMの世界についてソラコムに聞いてみた

本記事は、ASCII.jp(株式会社角川アスキー総合研究所)に掲載された記事より転載/再編集したものです。
元記事:https://ascii.jp/elem/000/004/131/4131490/ 文:大谷イビサ 

ソラコムは4月6日を「ソラコム・SIMの日」として記念日登録した。そんなSIMの日にSIMについて学ぶのはいかがだろうか? ソラコムの大槻 健氏にSIMの業界構造やその歴史、テクノロジー、そしてソラコムのSIMについて幅広く教えてもらった(以下、敬称略 インタビュアー ASCII編集部 大谷イビサ)。

ソラコム 事業開発マネージャー 大槻 健氏

SIMは小さなコンピューター 業界構造はクレジットカードと同じ?

大谷:今回はSIMについていろいろ教えてください。まずは大槻さんの自己紹介からお願いします。

大槻:ソラコムの大槻健と申します。Kennyと呼ばれています。現在は通信業界で先端的なヨーロッパにあるソラコムのロンドン拠点にいて、事業開発部門で事業部と技術部との橋渡しをしています。具体的にはキャリアとの調整、デバイスの調達、今回お話するSIMの開発を手がけています。

大谷:いつくらいにソラコムにジョインしたのですか?

大槻:もともと大手キャリアで、十数年近くSIMや端末の開発を手がけていたのですが、2016年にソラコムに入社しました。ソラコムは創業当時はNTTドコモのMVNO事業者だったのですが、グローバル展開を進めるにあたっては、自前でSIMの開発や調達が必要になるため、玉川(憲社長)と共通の知り合いを介して、ソラコムに入りました。

大谷:なるほど。続いて今回のテーマであるSIMについて教えてください。

大槻:最初にお伝えしたいことは、「SIMとは、皆さんのスマートフォンの中に必ず入っている」という身近なものである、ということです。

LTEや5Gといったセルラー通信の利用の前には、みなさんは回線事業者と契約をします。その「契約者であることを証明するハードウェア」がSIM。文字通りSIMとは「Subscriber Identity Module(加入者識別モジュール)」の略です。そして、ソラコムはIoT向けに通信や機能を最適化したSIMを提供しています。

SIMの構成要素を理解するために、SIMに関わるプレイヤーをご紹介します。

大谷:SIMを実現するプレイヤーが複数いるんですね。

大槻:そうなんです。まずSIMの金色の部分「セキュアチップ」という、文字通りセキュアなICを作っているチップメーカーがあります。サムスン電子、STマイクロ、インフィニオン、NXPなどの大手半導体ベンダーがここに位置します。

大谷:ここらへんはおなじみですね。うちにプレスリリースも来ます。

大槻:そして、このセキュアチップを購入し、自社のOSを組み込んだり、各キャリアにあわせたカスタマイズ、パラメーター設定などを行なうのが、いわゆる「SIMベンダー」になります。自社のOSと言っても、実際はJava Card OSという業界標準OSがあるので、これをそれぞれカスタマイズしてセキュアチップに組み込んでいます。この市場はG+D、タレス(THALES)、アイデミア(IDEMIA)のヨーロッパメーカーが3強です。

大谷:Java Card OSは知っていますが、SIMベンダーはお恥ずかしながら、全然知らなかったです。

大槻:実はセキュアチップの上に独自OSが載っているという構造は、クレジットカードも広義にはほぼ同じで業界のプレイヤーもSIMとクレジットカードは基本的に同じです。テレコム系のソフトが載っているか、金融・バンキング系のソフトが載っているかの違いだけです。いわばセキュアチップがパソコン本体で、そこへ業界特有のOSやソフトウェアを入れて利用しているようなものです。

SIMベンダーはキャリアとともに通信に特化したソフトウェアを提供します。SIMやUSIMを扱うための基本的なアプリケーション、IMSIと呼ばれる識別IDとそれを扱うためのAPI、OTA(Over the Air、無線経由での書き換え)と呼ばれるリモートメンテンナンスやアクセス制御、それに伴うファイル管理などです。

大谷:なるほどー。この業界構造って長らく変わらないんですか?

大槻:OSやソフトはつねに進化を遂げてますが、基本的な業界構造は変わっていないですね。

IoTで必要なSIMの要件は耐久性や長期利用前提の設計

大谷:まさにPCやスマホと同じようなソフトウェアスタックがあるんですね。SIMというと、SDカードのようなイメージがあるのですが。

大槻:「SIM=メモリデバイス」というイメージは、それはそれで間違っていないのですが、厳密には1つのコンピューターと捉えられます。メモリだけじゃなく、プロセッサーが載っています。

役割分担としては、ハードウェアやミドルウェアに近い領域はSIMベンダーが担当し、キャリアは各社独自の味付けを担当するという役割分担です。たとえば、セキュリティの規定はキャリアごとに違います。だからSIMとしての見た目は同じでも、中身はけっこう違います。

大谷:続いて既存のSIMとIoT向けのSIMのどこが違うのかも教えてもらえますか?

大槻:物理的な観点でよく言われるのはグレードです。実はSIMには、コマーシャル、インダストリアル、オートモーティブという3つのグレードがあります。通常、キャリアで販売しているスマホ用のSIMはコマーシャルグレードのSIMですが、産業用のインダストリアルや自動車用のオートモーティブはメモリの書き換え回数、温度耐性などが違います。

大谷:確かに工場や自動車は動作環境としてかなりタフですよね。

大槻:以前、自動車の案件に関わったことがありますが、当時はSIMのグレードがなかったので、コマーシャルグレード相当のSIMを使いました。その結果、なにが起こったかというと、SIMが溶けたんですよ(笑)。ボンネットや夏場の車の中はとても高熱になるし、特定条件だと温度も常時70℃を超えます。こうなると、プラスチック部分が変形するので、SIMとしては使えないんですよね。こうしたことがあるので、工場での利用を前提とした産業用SIMは耐寒・耐熱のレンジが広くなっています。

また、IoT用途のSIMは、利用期間がはるかに長くなります。個人向けスマホだと2~4年くらいの切り替えサイクルですが、ガスメーターのようなM2MやIoT用途だと、5~10年という利用期間も一般的にあり得ます。だから、インダストリアルでは、メモリの書き換えロジックも、長期間での利用を前提に設計しています。ソラコムでもインダストリアル用のSIM/eSIMも提供しています。

大谷:自動車用のオートモーティブについて教えてください。

大槻:オートモーティブに関しては、インダストリアルの要件に加え、振動への耐性や自動車業界固有の認証対応等が重要になります。振動すると、カード型SIMだとスロットから外れることもあるので、組み込み型のSIMを基板へハンダ付けして固定する方法がとられてきました。こうすれば物理的に外れてしまうという懸念も払拭できるし、キッティングも簡素化するし、挿抜のテストも不要になります。そういったメリットもあって、自動車用途のお客さま以外でも、組み込み型のSIMをお使いいただくお客さまが増えてきました。

新規案件ではかなりの割合がeSIM

大谷:こうした業界動向を踏まえて、ソラコムのSIMがこれまでどんな進化を進めてきたのか教えてください。

大槻:ソラコムがIoT向けデータ通信サービスのSORACOM Airを開始したのが2015年の秋です。当時は、日本国内で通信可能なSIMをカード型で提供していました。その後、2016年の秋にはいわゆるグローバルSIMを始め、2017年にはデバイスに組み込み可能なチップ型SIM(Embedded SIM、eSIM)を展開するようになりました。

SORACOMのSIMテクノロジーの歩み

SIMが持つ機能を基にした、IoT向けサービスもあります。それが2018年に提供を開始したSORACOM Krypton(クリプトン)というサービスです。Kryptonは、SIM内部の識別情報を用いて、IoTデバイスの初期化処理に必要な情報の取得を支援します。2016年のグローバル展開以降、ソラコムがフルMVNOとして自社でHLRやHSS(加入者管理機能)を開発したことで、より柔軟な回線管理・料金体系やIoT向け機能の提供が可能になりました。

大谷:続いてコンシューマ向けeSIMになりますかね。

大槻:はい。iPhoneなどでコンシューマー端末向けにQRコードを用いたeSIMプロファイルダウンロードのトライアルをスタートしたのが2019年頃。そして、新型コロナウィルスによるパンデミック直前の2020年2月、QRコードなしで、iOSアプリの操作だけでeSIMの購入から設定までが完結するコンシューマーブランド「Soracom Mobile」をスタートさせています(関連記事:eSIM&グローバル通信をお手軽に 君はSoracom Mobileを知っているか?)。

大谷:改めてeSIMのメリットについても教えてください。

大槻:IoT/M2M向けeSIMは先述の通り物理観点のメリットやデバイスベンダ側での相互接続テストの簡略化等が大きいと思います。コンシューマ向けeSIMはお客様観点では物理的なSIMの差し替えがなくなり、eSIMプロファイルをダウンロードすることにより、従来のSIMと同等の機能を実現します。Soracom Mobileはワンストップで、APNの変更もなく、すべての国で同じように利用できます。お客さまからも手間がないところはご評価いただいていますね。

大谷:SIMがソフトウェア化してきたわけですね。

大槻:はい。同じく2020年には弊社独自の技術として1つのSIMに複数の契約情報をOTAで載せられる「サブスクリプションコンテナ」を開始しています。また、デバイスの各種情報を取得して、サーバー側にレポーティングする「ローカルインフォ」というアプレットもインストールされています。さらに一部のお客さまには鍵ペアを自動生成するSIMアプレットの提供も始めています。

SIMに搭載されているプロセッサーは性能も高くないので、できることは限られているのですが、うまく使うことで、認証やセキュリティに役立てることができます。ちょっとしたプロセッシングをしたり、難読性もあるので、SIMの中に鍵を保存することでセキュリティを確保することもできます。

大谷:SIM自体で処理ができるというのは面白いですね。

大槻:IoTの世界って、サーバーやクラウド側のセキュリティに注目が集まるのですが、デバイス側のセキュリティにも気を配る必要があると私たちは考えています。たとえば小型コンピューターとして人気のあるラズパイの中のmicroSDに、クラウドへアクセスするための認証情報が、読み出し可能な状態で保存されているケースもあると聞いたことがあります。デバイスをいかにセキュアにするのかは、IoTが本格化した現在において取り組むべき課題でしょう。

カードサイズのSIMからナノSIM そしてeSIM、iSIMへ

大谷:なるほど。大槻さんがソラコムのSIMの歴史を振り返って、メモリアルなサービスとか、トピックはどこらへんでしたか?

大槻:やはりeSIM対応ですかね。ソラコムも始まった当初は数百回線という規模のお客さまが多かったのですが、eSIMを始めてからは案件の規模が数千、数万にまでスケールできるようになりました。同時に、製品にeSIMを組み込んで通信の疎通確認を実施した後に、SIMのステータスをStandbyに変更することで、在庫期間は基本料金が無料で保持できる(1年後更新が必要)料金プランを発表したこともあり、量産を前提としたIoTデバイス・コンシューマーデバイスの案件が加速するようになりました。現在はお客様の全体の6割以上近くがeSIM搭載デバイスで、新規案件ではかなりの割合でeSIM化されています。

進むソラコムのeSIM採用

当時の初期のお客さまの1つがポケトーク様です。通信でデバイスとクラウドをつないで、通訳を提供するという新しい製品コンセプトに私たちも驚きました。

お客さまのフィードバックを受けて、より使いやすいeSIMになってきています。では、さらなる進化はあり得るのかを考えてみると、大きく二つの方向性、物理的に極限まで小さくする方向性と、仮想化してソフトウェア化していく方向性になります。

大谷:確かに最近のSIMは小さいですよね。私もミニSIM以降はよくわかっていません(笑)。

大槻:物理的に言うと、SIMはいわゆる1FFというクレジットカードサイズからスタートしています。ヨーロッパで最初に投入された自動車用の携帯電話にはフルサイズのカード型SIMが刺さっていたんです。

その後、みなさんが見慣れている2FFサイズのミニSIMとなり、3FFサイズのマイクロSIM、いまもっともメジャーなナノSIMにまで小型化されています。一方で、組み込み用途では6mm×5mmサイズのMFF2になっており、さらに小さいWLCSPというフォームファクターもあります。

SIMの進化

そして、現在は業界的にiSIM(integrated SIM)に進んでいます。これは従来のSIM/eSIMと同等のセキュリティを担保した上で、セルラー通信のモジュールのチップセット内にSIMの機能を実装する技術です。

大谷:ワンチップ化してしまうんですね。

大槻:はい。従来セルラーのSoCとSIMは部品としては別々で、これはeSIMでも別々でした。SIMスロットがなくなり、書き換え可能なeSIMが表面実装されても、部品としては違うものだったんです。このeSIMをセルラーのSoC(System on Chip)に格納してしまうのが、iSIMになります。

iSIMとは?

大谷:eSIMで充分な気もするのですが……。

大槻:従来の物理SIMにあった課題はeSIMでかなり解消してきたのですが、基板スペース、消費電力、処理能力、実装コスト、輸出入コスト、商流の煩雑化など、セルラーSoCにワンチップ化することで、eSIMでも解決しきれなかった課題の多くを課題が解消できると期待しています。

たとえば、基板スペースの問題。先ほどMFF2は6mm×5mmと説明しましたが、半導体の世界だと、まだ大きいくらい。スマートウォッチのようなウェアラブルでは極端に小型のデバイスも出始めています。商流に関しても、SIMを組み込むメーカーからすると、今まで別々に調達しなければならなかったSIMとセルラーSoCを同じメーカーから調達できます。まさにワンチップ化することで、商流もシンプルになります。

大谷:業界構造も変わりそうですね。

大槻:この半年で各SIMベンダーがコンシューマ向けとIoT向けでiSIM対応を発表しており、先日開催されたMWCでもクアルコムやタレスがiSIMへの対応を発表していました。

われわれもこうした最新の技術や動向にはつねに目を光らせており、eSIM/iSIMに関しては標準化のワーキンググループにも参加しています。また、iSIMに関しても2022年の夏にソラコムは、セルラーIoT向けのチップセットを開発する​ソニーセミコンダクターイスラエル(Sony Semiconductor Israel Ltd.)と、セルラーIoTデバイス向けにセキュアな認証情報を提供するKigenの提供元であるKigen社とともに実証実験を実施したことを発表しています。アーリーフェーズから最新技術を試すことで、お客さまと一緒に実証実験や商用化まで進められるよう準備しています。

大谷:なるほど。すごく勉強になりました。では、最後にSIMの日を迎えるにあたって、ソラコムとSIMの今後についてまとめてください。

大槻:SIMのテクノロジーはセルラー通信の認証やセキュリティの根幹です。この技術があるからこそ、IoTプラットフォームSORACOMも世界中でサービスを展開できていると言えます。eSIMやiSIMが普及することで、SIMの存在は物理的には小さくなり、見えにくくなっていきますけど、あらゆるモノがコネクテッドになっていく時代には、システムやサービスの企画・開発に関わる方はしっかり押さえるべきテクノロジーだと考えています。

大谷:ありがとうございました!

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(提供:ソラコム)